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競走馬の移動を一挙に担う「馬運車」というプロフェッショナル🐴👨🏻‍🦲🪷



かつて育成牧場の場長を務め、現在は曹洞宗妙安寺の僧侶。

「ウマのお坊さん」こと国分二朗が、徒然なるままに馬にまつわる日々を綴ります。


奥深き「馬運車」の世界


私が発信している動画チャンネル「ウマのお坊ちゃんねる」で「ウマのお仕事紹介シリーズ」第二弾を撮影することになった。

今回は馬の輸送会社。

つまりは馬運車のお仕事だ。


以前お世話になったトカチ馬匹輸送の桜木さんに依頼し、快諾を得る。

現在は取締役で、ずっと配車を担当している方だ。





扉が開く時のサンダーバード感がたまらない(トカチ馬匹提供)
扉が開く時のサンダーバード感がたまらない(トカチ馬匹提供)

競走馬というのは、おそらく一般の人が考えるより、かなり頻回に移動する。


少し詳しい方のイメージでも、「美浦や栗東のトレーニングセンターに滞在し、月に1、2回競馬場へ向かいレースを走る。疲れが溜まったり、どこか具合が悪くなれば牧場へ移動する。」といった感じではないだろうか。


ちょっと説明させてほしい。

今現役のJRA所属馬は9000頭ぐらいいる(令和7年3月)。

トレセンの施設は限りがあるので、滞在できるのは美浦、栗東それぞれ1900頭程度。

つまり現役馬の半分以上は「放牧」されていることになる。

だから厩舎の成績を上げていくためには、馬の回転率を上げることが絶対必須条件だ。


所属馬を放牧先の牧場で、レースのギリギリまで鍛え上げてから、トレセンへ移動。

2週間程度(トレセンに10日以上滞在しないと出走できない決まりがある)でレースを走ったら、すぐに放牧へ出す。

これをいかにスムーズに行えるかで、通算の出走数、もちろん勝利数も大きく変わってくる。

ナニをもって名調教師か…なんて深堀っていきたくなるのだが、これは全然違う話になってしまうので止めておこう。


つまりは健康で臨戦態勢にある馬ほどトレセン、牧場間を移動しまくっているのだ。

そして厄介なのはトレセンへの移動。

施設の馬房数に限りがある以上、自由にトレセンへ連れていけるわけではない。

検疫と称して一日に門をくぐれる頭数は多くても70頭。

レースから逆算し、希望する日の検疫枠を勝ち取るという、「移動の権利」をかけたパイの奪い合いが常にある。


ここまでを理解できた方は、馬の移動とは結構ヒリついた世界なのであるということを感じ取っていただけたのではないだろうか。

移動に関して、風の吹くまま気の向くまま、いつ到着するかはお天道様に聞いとくれい的な、本来であればすこぶる馬に似つかわしいはずの世界は一切無い。

全ての移動には「おいおい、このタイミングで移動できないと出走プランが、厩舎の運営に関わってくるんだよう、分かってんのかコラ」というプレッシャーが加味されているのだ。


当然、その窓口となる配車係は、馬運車会社の顔そのものになる。

馬の移動を依頼され、先方の意図をくみ取ったうえでスムーズに馬運車の手配をできるか否か。

できなければ「ダメな馬匹輸送会社」となり他社に輸送依頼を奪われてしまう。

わがままな要求に最大限答えつつ、限られた台数でピストン移動させていく。

そんな複雑なパズルを組み合わせるスマートなセンスも求められる。


10年以上前の話ではあるが、桜木さんがトカチ馬匹輸送の「配車業務を引き継ぐ方」としてあいさつに来られた時のことは覚えている。

さあこれからは任せてください。バンバン回転させますよ!といった感じではなかったからだ。

え、何でここにオレいるの?といった雰囲気であった。

間違えて牧場へ侵入してしまい、スイマセンここはいったいドコですか?とおじさんが尋ねに来た感じ。

あいさつで既に大量の汗を噴出し、なんなら挙動不審。

馬用語を全く知らないので、会話もスムーズを欠いていた。

大丈夫かな?と今後が心配になるほどであった。


(つづく)




文:国分 二朗

編集:椎葉 権成・近藤 将太

著作:Creem Pan

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