深刻なケースを招くことも。絶対に知るべき牧場見学マナー。2/2
2020年から続くコロナ禍で、多くの牧場が見学を休止していた。ここに来てその状況もだいぶ緩和され、見学できる牧場も増えてきた。
既存の競馬ファン以外にも、ウマ娘人気でゲーム内でモデルとなった馬を見学したり、お墓参りをしたいという新しいファン層も加わり、今夏の牧場見学はこれまで以上に熱くなりそうな予感がする。
だが新しいファン層はじめ、牧場見学のマナーがよくわからないという人もいるはずだ。突然訪ねて牧場の人の作業を中断させたり、勝手に放牧地に入り込んで馬と接触して怪我をしたり、走っている馬の姿が見たいと石を投げたり、物を振り回して馬に怪我をさせたなどのトラブルも起きかねない。
今回は、牧場に訪れたことの無い競馬ファンに見学マナーについての疑問を伺った。
競馬ファン「牧場見学の手順がわかりません」
今回この記事を執筆するにあたり、牧場見学にこれから行ってみたいという競馬ファンに、見学について知りたいこと、わからないことを中心に聞き取りを行った。

写真:フランスへ応援に行くほど熱狂的な競馬ファンの小泉さん(写真:本人提供)
厩舎関係者とも知り合いになり、栗東トレセンにも面会で訪ねたことのある熱心なファンでもある小泉さんは、牧場見学をする際の手順がよくわからないとのこと。競馬場やトレセンと牧場は別物と感じているようだ。
それに対して河村所長に尋ねてみた。
「まずどの馬を見学したいのかというのが、見学の基本となります。よく馬ではなく○○牧場を見学したいとお問い合わせを頂くのですが、先ほどもお話したように生産、スタリオン、養老の各牧場は、観光牧場ではありませんので、伝染病予防のため厩舎内の立ち入りが禁止になっていたり、見学対象となっている馬以外は見せられないケースがどうしても多くなっていまいます。ですので○○という馬を見せてもらいたいから○○牧場に行きたいというふうにお考えいただければいいのかなと思います」
防疫上の観点以外にも、馬主から預かっている馬は見せられないということもあり、そのような措置が取られていると思われる。
【リンク】競走馬のふるさと日高案内所HP
「案内所のHPで見学したい馬名を検索すると、見学できる場合には牧場の名前も出てきます。そこには事前連絡不要とか3日前までに連絡など見学条件をのせてあります。それを確認して訪問する日が決まったら一度は案内所に連絡をしてください。その時に改めて見学条件と、牧場に直接電話できる場合には電話番号をお教えします。案内所が間に入って、この日時はどうかという連絡をするケースもあります」
「見学ルールを統一してほしい」
もう一人が、高校時代からスポーツとして競馬を楽しんでいる20歳の男子学生、二ッ木さんだ。

写真:イギリスで騎馬隊と写る二ッ木さん(写真:本人提供)
競馬ファンだが、まだサラブレッドには接したことが無いという二ッ木さんは、今年の夏に牧場見学を計画しており「見学ルールは、牧場ごと違うのではなく統一してもらえるとわかりやすい」「牧場見学マナーについての注意喚起の動画があれば見たい」という2つの意見が出た。
まず一つ目だが案内所のHPやパンフレットに「牧場見学の9箇条」が記載されているのだが、これが各牧場共通のルールとなるだろう。

写真:競走馬のふるさと日高案内所で配布している「牧場見学の9箇条」(撮影:佐々木祥恵)
それにプラスして
「例えば動画撮影がOKな牧場もあればダメな牧場があったり、SNSに上げてもいい牧場とNGの牧場があるというふうに、牧場ごとに違うんですよね。ふるさと案内所のHPに各牧場の見学条件をわかりやすく記載していますので、この機会にそれを読んでいただければ嬉しいですね」
牧場見学の9箇条にある基本ルールは同じでも、個々によって考え方の違いもあり、すべてを統一するのは難しい。
2つ目の注意喚起動画については「新冠町観光協会が見学マナー啓発動画の作成を検討中と聞いております。それが出来上がればより広く周知ができ、理解が進むのではないかと思います」とのことだ。
9箇条以外にもまだある注意事項
「防疫上の関係もあり、トイレは案内所や道の駅などで済ませて、牧場では借りないでほしいなと思います」
これは馬の伝染病対策だけではなく、人間側のコロナ対策でもある。
「家族経営の牧場が多いですし、誰かが感染すると業務に支障をきたすことになるんですよ。ですからソーシャルディスタンスも、牧場側は特に気にされています」
まだいくつも注意事項があるのだが、その中でもう一つ挙げるとすれば「馬産地には交通手段が少ない」ことだ。「免許はあるがペーパードライバーで運転に自信がない。どのように現地に行き、牧場見学をしたら良いだろうか」という問い合わせが案内所にもよくあるそうだ。
「電車やバスを乗り継いでそれぞれの町には着くけれども、牧場がその近くにあることは稀ですし、そこから奥に入るにはバスも限られているのでタクシー移動になってしまいます。距離も走りますし、かなり料金がかかりますね」
牧場は市街地から離れた郊外や山間に点在していて、公共交通機関のルートや便数も限られているので、綿密な計画と時間に余裕を持って行動することが重要だ。
その他の注意事項については、ふるさと案内所で配布している「牧場見学のルール&マナー」というパンフレットを是非ご一読いただきたい。

写真:競走馬のふるさと案内所で配布している注意喚起パンフレット(撮影:佐々木祥恵)
競馬場で生身の馬を見たことはあっても、多くの日本人にとって馬は決して身近な存在ではない。馬の生態や馬を生業にしている人々の事情を知らないのは当然だし、牧場見学の際に何がマナー違反になるのか分からなくても仕方ないだろう。
だが現代はネットという便利なものがあり、牧場マナーについて検索すればすぐに調べることができられるし、競走馬のふるさと案内所に問い合わせをすれば、丁寧にわかりやすく教えてくれる。
実際、筆者が関わる養老牧場でも事前予約の見学者(現在は引退馬協会等の会員)を受け入れているが、トラブルはほぼ発生していない。むしろ大好きな馬と対面して喜んでいる様子を目にしたり、その馬のファンになった理由を教えてもらったり、後日お礼や励ましのメールが届いた時には、受け入れて良かったという気持ちになるものだ。
見学する側が、この機会にルールやマナーを理解する。これが楽しく充実した牧場見学の第一歩になるはずだ。見学する側も、受け入れる側も気持ち良く時間を過ごすことで、牧場とファンの信頼関係を築き上げていけるだろう。

監修者プロフィール:平林健一
(Loveuma.運営責任者 / 株式会社Creem Pan 代表取締役)
1987年、青森県生まれ、千葉県育ち、渋谷区在住。幼少期から大の競馬好きとして育った。自主制作映像がきっかけで映像の道に進み、多摩美術大学に進学。卒業後は株式会社 Enjin に映像ディレクターとして就職し、テレビ番組などを多く手掛ける。2017年に社内サークルとしてCreem Panを発足。その活動の一環として、映画「今日もどこかで馬は生まれる」 を企画・監督し、2020年に同作が門真国際映画祭2020で優秀賞と大阪府知事賞を受賞した。2021年に Creem Pan を法人化し、Loveuma. の開発・運営をスタートする。JRA-VANやnetkeiba、テレビ東京の競馬特別番組、馬主協会のPR広告など、 多様な競馬関連のコンテンツ制作を生業にしつつメディア制作を通じた引退馬支援をライフワークにしている。
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協力:
河村伸一
競走馬のふるさと日高案内所
小泉 雄史
二ッ木 俊宇
取材・文:佐々木 祥恵
制作:片川 晴喜
デザイン:椎葉 権成
構成・編集:平本 淳也
監修:平林 健一
著作:Creem Pan
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牧場見学マナーの啓発動画については、Creem Pan制作のLoveumaオリジナル・フィルムも準備されてはいかがでしょう? いろいろな馬や人が協力してくれると思いますが。
ビーズクッションの快適さをアピールするアドマイヤムーンの動画を見ていると、馬っていくつになっても役者なんだなあと感心します。各地の引退馬牧場にも、スターの卵が眠っているかもしれません。