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「馬と小麦フォーラム」開催レポート|馬は人を癒し、育て、まちをつくる最高のパートナー

  • 7 分前
  • 読了時間: 6分

「Loveuma.」読者の皆様、はじめまして。編集者の笹山と申します。北海道札幌市を拠点に書籍編集の仕事を行う傍ら、10年以上にわたりホーストレッキングのガイドとして、馬と共に働く日々を過ごしています。その中で、「馬と人がどのように共に働き、生きていけるのか」というテーマに関心を持ち続けてきました。


今回「馬と小麦フォーラム」を取材したのは、馬の新たな役割や価値が、地域や産業の中でどのように再構築されているのかを、自分自身の実感として確かめたいと考えたためです。特に、引退馬の活用や循環型農業といった取り組みが、理想論ではなく現場でどのように実装されているのかに強い関心がありました。


本記事では、そうした視点からフォーラムの内容と現地で感じたことを整理し、「馬と働く」というテーマに向き合うひとつの記録として、「Loveuma.」に寄稿させていただきます。



2026年4月17日(金)、北海道帯広市のビート資料館映像室にて、「馬と小麦フォーラム」が開催された。 主催は株式会社満寿屋商店。引退馬の活用や循環型農業など、馬と地域の新たな関係性を考えるこのフォーラムには、全国から参加者が会場に集まり、オンラインでも多くの視聴者が参加した。



講演:「新たな馬の可能性」TCC Japan 山本高之氏


講演に登壇した株式会社TCC Japan 代表取締役・山本高之氏
講演に登壇した株式会社TCC Japan 代表取締役・山本高之氏

第1部の講演に登壇したのは、滋賀県栗東市を拠点に馬と街づくりに取り組む株式会社TCC Japan 代表取締役・山本高之氏。


栗東市はJRAのトレーニングセンターがあり、常時約2,000頭のサラブレッドが暮らす「馬のまち」だ。しかし山本氏は「外から見れば馬のまちでも、生まれ育った自分には馬はほとんど身近な存在ではなかった」と振り返る。転機となったのは2011年の東日本大震災。ボランティアとして被災地に入った山本氏は、復興に必要なのは地域の団結力だと実感し、地元・栗東に戻って馬を活用した街づくりへと踏み出す決意をする。


「PONY KIDS」では山本氏も馬の横を歩いてサポートする「サイドウォーカー」を行っていたという
「PONY KIDS」では山本氏も馬の横を歩いてサポートする「サイドウォーカー」を行っていたという

2015年、築100年を超える古民家の中庭にポニー2頭を迎えてスタートしたのがホースセラピー事業「PONY KIDS」だ。放課後デイサービスの形態で、障がいを持つ子どもたちと馬が共に過ごすこの活動は、当初、行政にも地域住民にも理解されなかった。活動場所を確保するまでにも多くの反対にあったという。それでも草の根で活動を続け、約400名の子どもたちと関わるまでに成長した。「馬は人の感情を読む力が、本当に高い動物だと実感しています」と山本氏は語った。


2025年にオープンした「メタセコイアと馬の森」では、ホットドッグに満寿屋のパンを使用している
2025年にオープンした「メタセコイアと馬の森」では、ホットドッグに満寿屋のパンを使用している

その後、引退競走馬のファンクラブ「TCC」、人と馬の福祉施設「TCCセラピーパーク」、馬糞堆肥で育てた野菜を提供するカフェ「BafunYasai TCC CAFE」、そして2025年には観光養老牧場「メタセコイアと馬の森」をオープンするなど、活動を拡大。「競馬でも乗馬でもない、第三の馬の活用」を一貫して追い求めてきた。


講演の中で山本氏が繰り返し強調したのは、馬の価値をプロデュースすることの重要性だ。「馬はほとんどの人にとって、競馬か乗馬のイメージしかない。でも、馬は本当に多種多様な能力を持っている動物。だからこそ、私たちがその価値をいかにプロデュースできるかが重要だと思っています」



パネルディスカッション:馬、歴史、農業、それぞれの視点から


左から永田氏、山本氏、南保教授、三浦氏、大和田学芸員
左から永田氏、山本氏、南保教授、三浦氏、大和田学芸員

続くパネルディスカッションには、帯広畜産大学の南保泰雄教授(獣医師・馬臨床繁殖学)、帯広百年記念館の大和田努学芸員、三浦農場代表取締役・三浦尚史氏が登壇。馬車BAR・麦音ホースパークの運営を行う、Natural Horse Parks and Tours株式会社の永田剛氏がコーディネーターを務めた。


ビート資料館には、かつての働く馬たちの様子がジオラマ展示されている
ビート資料館には、かつての働く馬たちの様子がジオラマ展示されている

南保教授は「5,000年前から家畜化され、常に人の身近にいた動物。その長い歴史の中で、馬は人との関係を築いてきた」と語った。大和田学芸員は、フォーラムの会場であるビート資料館の敷地がかつて開拓者の農場だった歴史に触れ、「70年ほど前まで馬が闊歩していたこの場所で、改めて馬の文化を問い直すことに意義がある」と語った。十勝の開拓期、馬は畑を耕し、ビートを運び、人々の暮らしをあらゆる面で支えてきた。昭和30〜40年代の機械化によって、馬は農業の現場から姿を消していった。しかしその記憶は、今もこの土地に受け継がれている。


会場では参加者全員に、馬の堆肥で育った小麦「ばんえいキタノカオリ」を使用した「うまっしゅパン」が配られた
会場では参加者全員に、馬の堆肥で育った小麦「ばんえいキタノカオリ」を使用した「うまっしゅパン」が配られた

三浦氏は、馬糞堆肥→マッシュルーム栽培→完熟堆肥で小麦栽培→製粉してパン→麦わらをばんえい競馬の馬へ、という一連の循環を丁寧に解説し、循環型農業が生み出す価値について語った。



なぜパン屋に馬がいるのか──麦音ホースパークが問いかけること


麦音ホースパークの敷地内では、今後、馬車の乗車体験が行われる予定
麦音ホースパークの敷地内では、今後、馬車の乗車体験が行われる予定

フォーラム後半は会場を移し、「麦音ホースパーク 馬と小麦の丘」へ。馬車実演や牧場見学を通じて、参加者たちは馬との直接のふれあいを楽しんだ。


なぜパン屋に馬がいるのか。その答えは、すでにこの十勝の地で動き始めている「循環」の中にある。2015年に始まった、地域資源循環プロジェクト「ばん馬toきのこto小麦の環」では、ばん馬の堆肥がマッシュルーム栽培の培地となり、その後完熟堆肥として小麦畑へ。育った小麦は満寿屋商店でパンになり、麦わらは再びばん馬たちの寝床へと戻っていく。馬が農業を支え、農業がパンを生む。麦音ホースパークは、その循環をまるごと「体感できる場所」として生まれた。


道産子(北海道和種)も、北海道の歴史には欠かせない馬たちだ
道産子(北海道和種)も、北海道の歴史には欠かせない馬たちだ

十勝という地域の文脈もまた、この場所に深みを与えている。開拓期から農耕馬と共に大地を切り拓いてきた歴史を持ち、世界唯一のばんえい競馬が今も根付くこの土地で、馬は単なる観光コンテンツではない。かつて当たり前にそこにいた動物が、形を変えて日常に戻ってくる感覚がある。


馬車実演を見せてくれたムサシコマを労う山本氏
馬車実演を見せてくれたムサシコマを労う山本氏

山本氏はこの場所を見て「帯広には圧倒的なポテンシャルがある」と語った。「1日に多くのお客さんが来るパン屋という場所に、本物の馬がいる。お子さんが馬を見て駆け寄っていく光景が目に浮かぶ。馬が目的じゃなくてもそこにいるだけで主役になれる動物なんです。しかもその馬の糞が堆肥になって、小麦になって、手元のパンになっている。そんな場所は全国を探してもほかにない」


毎日パンを買いに来る人が、ふと放牧地を覗く。子どもが馬と出会う。大人が食と命のつながりを思う。麦音ホースパークは、そんな小さな気づきが積み重なる場所として、今まさに動き始めている。


放牧地の隣にはイスとテーブルが用意されており、のんびり過ごす馬たちをながめながら、美味しいパンを食べられる
放牧地の隣にはイスとテーブルが用意されており、のんびり過ごす馬たちをながめながら、美味しいパンを食べられる

「馬は人を癒し、人を育て、環境を循環させ、まちづくりを牽引する最高のパートナーである」

山本氏の言葉が、十勝の大地に響いた一日だった。



笹山 浅海(ささやま あさみ)

北海道十勝地方出身、札幌市在住。株式会社マニュブックス代表。書籍、雑誌、Webなど媒体を問わず企画・制作を手がけるほか、2023年よりGallery & Shop「馬と獅子」を運営。また、ホーストレッキングのガイドとして10年以上、馬に乗り、共に働いている。「馬と働く」というテーマに強い関心を持ち、実践を通じてその可能性を探り続けている。



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