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「ときがわホースケアガーデン」にぷらっと行ったら、思いがけない歓迎っぷりで…?🐴👨🏻‍🦲🪷



かつて育成牧場の場長を務め、現在は曹洞宗妙安寺の僧侶。

「ウマのお坊さん」こと国分二朗が、徒然なるままに馬にまつわる日々を綴ります。


一路「ときがわホースケアガーデン」へ


日差しが少し汗ばむくらいに暖かく、それでいて時折涼しげな風が肌を撫でる。

ひたすらに気持ち良く「こんな日が一年中続けば良いのに」と誰もが思うような春の陽気の週末。

「さてどうするか?」ハンドルを握りながら、空き時間の処遇を考えていた。

こちらから出向く場合、供養のスケジュールはかなり余裕を持つようにしている。

万が一にも遅刻するわけにはいかないからだ。

とはいえ先方の都合もあるので、結果として、持て余すくらいの空き時間が発生する場合がある。





なので供養先が遠方の場合は、事前に近隣の様子を調べ、面白そうな場所があれば、ちょっと覗いてみようかなと考える。

けど実際は、当日運転しながら少し悩んだ後に、結局「何もしないことを選択」してしまうのが常だ。

法衣を着替えるのが億劫だ、というのが主な理由ではある。

結果としてコンビニの駐車場でスマホをいじるか、惰眠をむさぼるか。

いつからであろう「悩んだ挙句、何もしない」怠惰な自分を許容できるようになったのは。


だが今日はちょっと違った。

空き時間を確認し、高揚する。

怠惰な自分がむっくり起き上がることはなかった。

「馬に会いに行ける」そう思ったからだ。

次の目的地である越生斎場の近隣には、見知っている乗馬施設があった。

多少の遠回りにはなるが、30分以上は滞在できるだろう。

そう考えて、一路「ときがわホースケアガーデン」へ向かった。


昼時に到着すると、放牧地脇のテーブルでくつろぎ談笑している姿が目に入った。

道路脇でもあったので、すぐ前に車を横付けにして、運転席の窓を下げる。

皆ギョッとしてこちらを見ていた。

それはそうであろう。

僧形の不意打ちは、たいていギョッとされる。

ましてや、いきなり目の前に横付けにされた車の窓から、徐々に姿を現すのがそれなのだから、訝しげになるのも無理はない。

手を振ると、やっと「私」だと気が付いてもらえたようだった。


ただ、代表の鈴木さんがかなり驚いていた。

完全にフリーズしている。

まるで異世界転生した私が、勇者として姿を現すのを、目の当たりにしている異世界人のように凝視してくる。

そこまで驚くか。

2月も顔を合わせているから、そこまで久しぶりというわけでもない。


その時、そばにいた女性スタッフが声を上げた。

「ちょうどジローさんの話をしていたんです!」

今度はこっちが驚いた。

まさか女性から「ちょうどあなたのことを考えていた(妄想加味)」と黄色い声(妄想加味)を上げられる日が来るなんて。

ビバ異世界転生。

これは転生してみたらモテ男になってたバージョンか。

すっかり浮足立ち、話を聞く。

場内の馬頭観音を収めている祠の傷みがひどいので、修繕を考えているそうだ。

当然、馬頭観音様にとって頭上が、相当やかましい状況になるだろう。

そのご挨拶の供養を私にお願いしようか、と相談していたというのだ。


修繕途中の馬頭観音の祠(ときがわホースケアガーデン提供)
修繕途中の馬頭観音の祠(ときがわホースケアガーデン提供)

そこにいきなり、私の方からやってきたのだから、驚くのも無理はない。

異世界転生もビックリの、まるでかつてのトレンディドラマ然としたご都合主義な設定で登場したわけだ。

バックに小田和正の歌が劇的に流れるような場面ではないか。

実際出てきたのは、最近頭のシミに悩んでいる坊主だが。


話を聞き、では早速と、到着して5分後には馬頭観音前でお経を上げ始めていた。

僧侶ではあるが俗っぽい言い方をすれば、実に気分が良い。

もちろん先の「あなたのことを想っていた(妄想)」黄色い声云々ではない。

馬を取り巻く環境に対して、細やかな気遣いをされる方たちの思いが気持ち良いのだ。

そして、その思いに応えることができる立場に、今あることをありがたいと思う。


(つづく)





文:国分 二朗

編集:椎葉 権成・近藤 将太

著作:Creem Pan

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