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「全頭生かせなければ意味がないのか?」引退馬協会代表理事・沼田恭子 2/3




変わる、引退馬支援


 JRAの現役調教師だった角居勝彦さん(現在は調教師を引退)が引退馬支援活動に乗り出し話題となり、海外ではダーレーが世界中の引退馬について考えていきたいということで、日本でも馬関連の各所に働きかけを行っていた。そして2017年末にはJRAが「引退競走馬に関する検討委員会」を立ち上げ、引退馬支援に動き出した。沼田さんはJRAが本格的に動き出す前と後では引退馬を取り巻く状況は大きく変わったと感じているという。

 「ウチのような団体もありましたけど、むしろそれまでは馬のことを真剣に考えている人や牧場の方々の個人的な活動としての引退馬支援でした。それに対して競馬サークル全体では、引退馬についてはほとんど関わってはきていませんでしたよね」

 そのJRAが引退馬支援に乗り出すと宣言し、前述した「引退競走馬に関する検討委員会」を設けた。

「アメリカやイギリス、フランス、オーストラリア、日本など何か国か集まって引退馬の会議を行っているのですけど、日本は競馬のパート1国になったのに、引退馬について支援活動が十分ではないということに対して、海外からも外圧があったのだと思います。」

 その外圧も、JRAが動くきっかけになったのではないかと沼田さんは考えている。JRAという大きな団体が乗り出すと、当然ながら影響力も大きい。

 「JRAが入ってくることによって、引退馬に対してもお金が動いてくるんです。」

 JRA内部に設置された「引退競走馬に関する検討委員会」では「引退競走馬の養老・余生等を支援する事業」という取り組みを行い、養老牧場や引退馬協会などの団体に調査の上、活動奨励金を交付している。

 それまでは半ばボランティア精神で競馬から引退した馬の余生の面倒をみてきた人がほとんどであった。だがお金が回り出すと、引退馬の世界にも変化が生じる。

「引退馬に関わればビジネスになるかもしれないと考える人も参入してきました。そのあたりが大きく変わったところなのかなと思いますね。ただ最初の年は、奨励金は何年も引退馬に関わってきた施設や団体に出たと聞いています。そのお金で皆さん何をされたかというと、厩舎が足りないなど、それまで経済的な問題で手を付けられなかったところに着手したんですね。奨励金のお蔭で、一歩前に進めたというのは、とても大きな出来事だと思います。」

 JRA以外では、ウマ娘の効果が引退馬支援の追い風になっている。前述したナイスネイチャのバースデードネーションは毎年、テーマを設けて寄付を募っているのだが、今年は、自らが重賞勝ち馬である種牡馬、繁殖牝馬、重賞優勝馬を輩出した繁殖牝馬の余生支援がテーマで、ウマ娘のキャラクターとしても人気のナイスネイチャ効果も相まって、目標額を大幅に上回る35,829,730円の寄付が寄せられた。現在のところ、ダービー馬ディープスカイをはじめ、アサヒライジング、タイキポーラ等、自身や産駒が重賞勝ちのある10頭の受け入れが決定しているという状況だ。

 「これまでは競馬ファンからしか、引退馬に関心を持ってもらえる人を掘り起こせないと思っていました。でもウマ娘によって、そのゲームをする方々が活躍した競走馬に興味を持ち、その馬たちの引退後のことまで考え、応援しようという気持ちになってくださったのは、素直に嬉しかったですね」

 ウマ娘という思いがけない形で引退馬に注目が集まったのは、想定外ではあったのかもしれないが、これまで関心を持っていなかった層にも引退馬の存在を周知させ支援者が増えたことは、大きな前進といえそうだ。





このコンテンツは、映画「今日もどこかで馬は生まれる」公式サイト内「引退馬支援情報」ページにて2021年6月から12月にかけて制作・連載された記事の転載になります。


 

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