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生活において馬が最優先!愛されコジュウチョウサンの裏には並々ならぬ努力が…🐴👨🏻‍🦲🪷



かつて育成牧場の場長を務め、現在は曹洞宗妙安寺の僧侶。

「ウマのお坊さん」こと国分二朗が、徒然なるままに馬にまつわる日々を綴ります。


家庭も仕事も、馬も。


須田先生が別の牧場へ向うため立ち去った後、我妻さんの話を聞き始めた。

放牧地のポニーを眺めながら、ポツポツと口にする言葉は、こぼれ出る心情そのままなのだろう。

とにかくポニーが可愛くて仕方ないのだという。


仕事より、家庭よりも大事なんだ


と、活字にしてみると結構ドロドロの不倫ドラマのようなセリフも、草を食むポニーを前にすると不思議と受け入れられる。

ポニーを購入し、牧場への預託という形で飼っているが、自身も面倒を見ている。

自宅のある横浜から、千葉の富里まで週に3、4日は来ているそうだ。

厩舎作業を終えたら、あとは放牧地の前で1日を過ごせれば最高。

生活において馬が最優先。

周りの人には諦めてもらっている。

どうであろうか。





多くの感想は「それは確かに理想だわね」であろう。

そしてその直後には「けれども」と、否定的な文言が続くのではないだろうか。

馬を飼い始めた当時、我妻さんをよく知る須田調教師が

「金持ちのボンが変な道楽を始めた。どうせすぐに飽きるんだろう。」

みんなそう思っていたよ、と笑うのも理解できる。

わたしのように庶民ブーストが発動し「けれども」「どうせ」を、ことさらに強く念じた人もいるであろう。


だが彼は本気であった。


飽きないどころか、実はもう「10年以上も」そんな生活を続けている。

つまりは「変な道楽」ではなかったという事だ。

さらには世捨て人のように、馬以外を放棄したわけでもない。

家庭も仕事も、馬も。

どれも破綻させることはなく、すべてを成り立たせて10年以上も続けているのだ。

とんでもないポテンシャルではないか。


馬と過ごす時間を確保するために、事業をできる範囲に縮小した。

昼は馬のそばにいたい。仕事はパソコンでできるし、夜もできる。

結婚前からすでにその生活スタイルなので、家族の理解というかすべての前提として馬がある。

馬がいる生活がすでに贅沢なので、ほかの物欲は無い。


コジュウチョウサンになる前
コジュウチョウサンになる前

うーん。

変な道楽ではなかったにせよ、変人には違いない。

よく感じるのだが、たいていポテンシャルの高い人は、だいたい変人だ。

そして愛される変人であり、周りに理解者が集まるのも特徴だ。


「僕は自分のポニーが幸せだったら、それでいいんです。ほんとそれだけ。」

このセリフを言い切れるだけ、自分はやってきているという自信も感じる。

「いつかこいつらが死んで、僕も死んで。そしたら言葉が交わせる日が来ると思うんですよ。その瞬間が楽しみで仕方ないんです。」


いやはやカッコイイ変人である。


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自未得度先度他(じみとくどせんどた)とある。

道元禅師の言葉だ。


おのれ(自分)未だ渡らざる先に一切衆生(いっさいしゅじょう)を渡さんと発願(ほつがん)し、いとなむ(営む)なり。


渡る、というのは「さとり」を得て救われた境地へ達すること。

「自分が救われる前に、生きているあらゆるもの(衆生)を救おうという誓願(せいがん)を立て実践する。」

これが「菩提心(ぼだいしん)」なのだと道元禅師は示されている。


すごーくひらたく表現すれば、ほかの人(や生き物、あるいは物)の為に何かを実践していく、ということ。

自分のポニーを生活の中心に置くために、すべてを成り立たせるその努力は尋常ではないはずだ。

ただその大変さを語ることはしない。

自己犠牲的な精神は無く、あくまでもやりたいことをやっているだけ、というスタンスだ。


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自未得度先度他のいとなみには多様性がある。

これで正解というものもない。

対象を「馬」に限定したとしても、そうであろう。

個体としての馬一頭のみに向けるものだったり、維持継続を考え事業を含めた馬であったり、大きな命のサイクルの中の馬であったり。


今まで多くの馬事業を運営されている人に出会い、話を聞いてきた。

じつに様々だ。


お互いの思想が相反するケースも、じつはある。


ただ本気で取り組んでいる人は、つねに模索しつづけている。

そして自信を持っている。

現状に対しての満足めいた自信ではなく、関わってきた過程に対する確固たる自信だ。

共通して、みんな眩しくカッコいい。

(つづく)





文:国分 二朗

編集:椎葉 権成・近藤 将太

著作:Creem Pan

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