🐎引退馬の「養老余生」を考える会議に参加して

Loveuma.
19 時間前
読了時間: 4分

引退馬支援のパイオニアであり、認定ＮPＯ法人引退馬協会・代表理事の沼田恭子氏が、

馬と暮らす毎日から抱く思いを綴ります。

サムネール画像：タービランス（引退馬協会所有馬／フォスターホース）とともに

年の瀬も押し迫る頃となりました。毎年この時期に「引退競走馬の養老余生を支援する事業」の支援を受ける団体が集まる会議が開かれており、私も出席してまいりました。

牧場運営をされている管理者は、日常では滅多に牧場を離れることがありませんが、この会議には毎年多くの方が全国から集結します。これは、JRAが引退馬支援への取り組みを発表（2017年）して以来、継続されている会議であり、参加者は活動奨励金を受ける各団体です。

2017年、「引退競走馬に関する検討委員会」がJRAに設置され、「引退競走馬のセカンドキャリア促進」を進めること、養老余生の問題や馬の福祉に関わる問題にも、積極的に取り組まれるようになりました。それに伴い、養老牧場の増加と共に引退馬の受け入れ頭数も増えつつあります。当初11団体だったこの会議の参加数も、今年は57団体にまで増え、引退馬への関心の高さが伺えます。

引退馬支援に携わる各団体が集結

この会議では、主催であるTAW（一般財団法人 Thoroughbred Aftercare and Welfare）やJRAの関係者の他、獣医師や飼料の専門家なども参集し、養老牧場の現状把握や、参加者が抱える管理上の疑問点、経済的、あるいは人材といった多岐にわたる問題へのアドバイス提供体制が整えられています。

引退馬協会の預託先施設を運営する多くの方々も、毎年会議に参加されています。普段は馬の連絡事項のみで終わる関係者間においても、ここでは同じ引退馬を繋養する運営者として、皆が同じ目線で耳を傾け、心配事や疑問点など意見を交わすことができます。

とくに日々起こる高齢馬の問題は教科書には書かれていないことばかりで、実践する方からの意見がとても参考になり、大変有意義な場となっています。

競走生活引退後、TAWに仮移動中のティーズダンク（引退馬協会フォスターホース／画像提供：引退馬協会）

その後ティーズダンクは仮移動していたTAWから終の棲家となる社台牧場へ移動しました（引退馬協会フォスターホース／画像提供：引退馬協会）

私が乗馬クラブを始めた30年前、馬が何歳まで生きられるかを知ることはなく、平均寿命さえわかりませんでした。当時は20歳を超えた馬は老齢馬と認識されていました。この30年で獣医療も進歩し、馬の飼料やサプリメントも人間並みと言えるほど進化を遂げています。

その結果、30歳を超えても元気に毎日を過ごす馬も珍しくなくなりました。私たち人類も100歳を超えることが珍しくなくなったのと同様ですね。また、それに伴い、新たな問題も出てきているように思います。

引退馬協会のふれあいイベントで、会員さんにニンジンをいただくルックトゥワイス。競走生活引退後、TAWの前身である栃木県宇都宮市のJRA施設に仮移動していました。その後、乗馬倶楽部イグレットへ移動し余生を送っています（引退馬協会フォスターホース／画像提供：引退馬協会）

養老余生の世界も「第二世代」の時代へ

各施設のフロントに立ち、引退馬の養老余生を支える方々が参加するこの会議は、日頃の疑問や経営上の悩み、引退馬への考え方について積極的な意見交換を行う場となっています。それぞれの立場や経験に違いはありますが、共通して挙げられる深刻な問題の一つに「人材不足」があります。

馬の飼育管理には、長い拘束時間が必要とされ、とくに高齢馬の繊細な管理にはそれ以上の強い熱意と愛情が必要となります。「働き方改革」ではだいぶ努力もされてきましたが、その一方でこれが業界の人材不足の原因の一つともなっています。今後、より多くの引退馬の養老余生を確保していくためには、この現状を解決する必要があります。

多くの人材が集い、業界が発展していくためには、働きがいのある未来を描ける魅力的な産業へと進化することが不可欠です。

2022年、競馬法における附帯決議*として国会に挙げられた引退馬に関する事項により、この問題が今後、後戻りをせず、さらに解決に向かうことと思います。

*「競馬法の一部を改正する法律案（閣法第7号）附帯決議」　2022年10月〜12月　第210回国会（臨時会）参議院　農林水産委員会（PDF）

「競馬法の一部を改正する法律」　2022年11月18日法律第85号（PDF）

引退馬のために骨身を惜しまず尽力してきた「第一世代」の次を担うのは、引退馬の新たな可能性を引き出し、馬と共に人生を楽しむ「第二世代」です。第二世代の皆様の活躍が期待されます。彼らが業界を活性化させ、持続可能な引退馬の未来を築く鍵となることでしょう。

Profile

沼田恭子（ぬまたきょうこ）

広島県生まれ。乗馬倶楽部イグレット代表取締役、認定NPO法人引退馬協会代表理事。1997年、引退馬協会の前身となる「イグレット軽種馬フォスターペアレントの会」を設立。2011年「特定非営利活動法人引退馬協会」設立、2013年「認定特定非営利活動法人（認定NPO法人）」となった。