「ホースセラピーとは?」この質問に思わず考え込んでしまった理由🐴👨🏻🦲🪷
- Loveuma.

- 2 日前
- 読了時間: 4分

かつて育成牧場の場長を務め、現在は曹洞宗妙安寺の僧侶。
「ウマのお坊さん」こと国分二朗が、徒然なるままに馬にまつわる日々を綴ります。
地に足をつけた迷い方
収録というのは大げさではあるが、当日。
雑談的に「ホースセラピーに関わることになったキッカケ」なんぞを聞いて、場をほぐす。わたしもそれぐらいのことは意識してできるのだ。そしていよいよ最初のぶつけてみた。
「ホースセラピーとは何ですか?」
捉え方によっては、まるで禅問答のような質問だ。収録までの数日間で、小泉さんは何を考え、どんな答えを用意したのだろうか。いやそれとも既に明快な答えを持っていたのだろうか。
私はかなりウキウキしていた。
そして回答は全く想像もしていないものだった。いや回答ですらなかった。こう言ったのだ。
「・・難しいですね・・・これは考えちゃうな・・・」
そして沈黙が訪れた。
くどいようだが、質問は数日前に渡してある。内容確認の上、了解したとの返事ももらっている。ひょっとして、これはフリなのか。自分で演出をしているのか。一度考える体で、この後に立て板に水の如く、至高の宝石のような言葉が続くのか。
しかし小泉さんは腕を組み、その後も本気で考え続けた。沈黙が続く。もう待つしかない。ウンウンと真剣に考え、表情も赤みを帯びてきた。
ついに・・・わたしは思わず爆笑してしまった。なんと隣では小泉さんも、愉快そうにのけ反って笑っている。いやそっちが笑ってる場合じゃないだろ。AIが見つけ出した登山口や山頂までの最短ルートは、跡形もなく吹き飛ばされてしまった。
だがまあ、それも不思議と納得のいくものではあった。悪くない、と思っていた。
その後収録を進めていく。登山ルートの痕跡を探しては質問し、でも派手に滑落するような展開が続く。そして途中には、こんな言葉があった。
「12年ホースセラピーを続けて、迷いもあって、最近概念が変わってしまったんです」と。
―・-・-・-・-・
「霧の中を行けば覚えざるに衣湿る」とある。
「禅僧が大好きな禅語シリーズ」があれば、間違いなく殿堂入りする言葉だ。霧の中を歩いていると、知らず知らず袖は濡れる。つまり迷いながらも修行をしていれば、いつの間にか仏道に染まっていくんですよという教え。
なんでこんなことしなきゃいけんのだっ!と悩む新参和尚時代に、何度も老師様からこの言葉で説かれたか分からない。
小泉さんはずっとホースセラピーという霧の中で、あっちでもないこっちでもないと歩き続けたのだろう。そして、これからも迷うのだろう。それでもしっかりと袖が濡れている重みは感じているにちがいない。
なぜなら彼女の語る言葉は力強いから。迷子で不安になっている人のものではない。堂々としっかりと迷っている。霧中を歩き続け、迷い続けるのは胆力がいるに違いない。
一方で自分はどうだったろうか。イヤスゲー霧だな。これ迷っちゃうな。
そうやって霧の深い茂みを、遠くから眺めていただけなのではないだろうか。正解が分からないと、分かった風な口をきいて、外から眺めているだけの私の袖は、全然濡れていないのだ。この収録への気後れも、そんな自分をどこかで自覚していたからだろう。
―・-・-・-・-・
今回のホースセラピーの収録は(というか大体いつもそうなのだが)まあなんとなく話してみましょうよ、といった感じだった。
話が取っ散らかるのも、行ったり来たりするのも、話している間は案外と楽しい。脱線に脱線を重ね、完全に見失い、迷うこともあった。そんな時は進行役のくせに、こんな愚にも愚な質問を平気でしていた。
「えーと、いまナニについて話してたんでしたっけ?」
その時は、雰囲気なりに滞りなく、かつ楽しく喋れているつもりになっている。だが、辛いのは、このあとの編集作業だ。霧の中に立ち入らず、そのくせ分かっている感を出している自分を、何度も繰り返し見る羽目になる。
こそばゆい感程度で、ニヤニヤと笑って見ていられるのは最初だけだ。理解が浅いゆえ、同じフレーズを何度も得意げに語る自分に、徐々に憎しみすら覚えてくる。
冷めた目で、客観的に見ることができる今の私には、トーク中に自分が迷っているのが良く分かる。そしてこの迷いがダメな迷いだともわかる。あてもなく中空をフワフワ漂う迷いは、ダメなやつなのだ。
しっかりと地に足を着け、教えや目標を求めて飛び込む霧の中でなければ、どれだけ迷っても袖は濡れてこない。次回からはやはり指針をちゃんと作ろう。それを生み出すための苦しみは、正しい迷いなのだ。袖はしっかりと濡れる事だろう。
自分の分かった風に語るシーンを削除して、自分をひたすら浄化していく。延々と続く作業の中でアレ?そういえばこんな反省を前もしなかったけ?と気が付き途方に暮れたのはちょっとだけ後の話だ。

(つづく)
文:国分 二朗
編集:椎葉 権成
著作:Creem Pan


























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