たとえエキストラだったとしても、それは欠かすことのできない歯車🐴👨🏻🦲🪷
- Loveuma.

- 3 時間前
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かつて育成牧場の場長を務め、現在は曹洞宗妙安寺の僧侶。
「ウマのお坊さん」こと国分二朗が、徒然なるままに馬にまつわる日々を綴ります。
今立っている場所こそが「本番」の舞台
撮影合間の会話で、エキストラ会社から仕事で来ているということを教えてもらった。普段は舞台にも出ているのだそうだ。こうした職種の方がいるのだとかなり驚いた。
そういえば、と気が付く。同じ調教師役は、みんな顔見知り風だったではないか。聞けば、やはりみんな一緒だという。同じ会社から来た人もいるし、多くの撮影現場で会うから顔見知りも自然と増えるらしい。
その方からドラマの撮影について、色々と教えてもらった。撮影では同じシーンを、カメラの場所を変えて何度も撮る。それを切り貼りするので、どの映像が使われるか分からないという。
だからシーンを通じて矛盾が生じさせない為に、カメラが向いていても、いなくても毎回同じ熱量で、同じ演技をするのが大切なのだと言っていた。ちょっとカッコイイ。信長の十分の一くらいの野望は持っているにちがいない。
一番驚いたのは、今日の撮影はかなりスムーズに進んでいる、という話だ。スタッフの手際は良いし、俳優さんたちも場を乱すような人がいなくて、気持ちのイイ現場らしい。
なんと。
手持ち無沙汰過ぎて、大悲心陀羅尼のお経にいったい何人のソモ子が出てくるのか、数えていたあの時間は何だったのだろう。
そういえば、と気が付く。
現場の撮影スタッフはずっと忙しそうであった。
私が東京競馬場のモアイ像と化し、たたずんでいる間も、スタッフが周りを走り回っていた。現場を仕切る監督さんが雰囲気を引き締め、緊張感ある中で全員がそれぞれの仕事を果たしている感があった。
何か大きなものを作り上げる現場というのは、すべての場面において、それぞれ出番のある人が、とっかえひっかえしながら頑張っている。それを強く感じた。例えばカメラチームは構図が固まるまでジッと待っているが、いざ決まるとあっという間にカメラの足場を組み上げていく。その様子は迫力すら感じた。
私はエキストラだ。撮影の現場において、それはそれは小さな存在だ。けど間違いなく一つの歯車であったはずだ。それなのに暇だ暇だと嘆き、いざ待ち望んだ頑張るシーンがくれば、恥ずかしさを理由に演技を拒否し、映らない角度であれば安心してサボり呆けていた。
―・-・-・-・-
人生には、誰にも知られずとも、ひとりひとりが立つべき「舞台」がある。
その舞台は、華やかである必要はない。スポットライトが当たらなくても、拍手がなくても、そこに立つあなたの姿は、仏の眼にはまばゆく映っている。「縁起」により、無数の縁に織りなされた結果として、あなたの立つ舞台は常にある。
だからこそ、その場面でできることを、心を込めて果たすことが尊いのだ。すべては「無常」で、すべては移り変わる。 今日の舞台は、明日にはもう存在しないかもしれない。 だからこそ、今この瞬間に心を込めて果たすのだ。
それを認めないと「いつか本番が来る」と思っているうちに、舞台は終わってしまうかもしれない。今立っている場所こそが、本番の舞台なのだ。
―・-・-・-・
先日ドラマが放送された。
あれほど時間をかけて撮影したシーンが、容赦なく削られている。結構大事な役柄なのかな、と思っていた元騎手の方が出ているシーンもほんの一瞬だった。
シーンの切り貼りをしていく監督のセンスも凄いが、驚くべきはシーンをカットしていく胆力だろう。俳優さんや事務所のパワーバランスであったり、おそらく忖度しなければいけない部分もあるだろう。その中で必要なパーツだけを純粋に選び出す作業は、相当に苦痛を伴うのではないだろうか。
それにしてもドラマは見事な出来栄えだった。撮影された一つ一つの場面が、繋がることで生命を与えられている。完全に個性を持った生命体になっている。今後も期待してしまう。
自分の参加していたシーンは、俳優さんにしっかりとフォーカスされていた。したがって私たちエキストラがうごめく背景はボヤけている。残念ながら思った以上に、ボヤけている。エッチな動画の映ってはいけない部分よりボヤけている。これはかなり期待薄だ。なんだかんだ言っても楽しみにしていたのだと、自分のガッカリ度で思い知る。
そしてついに、私にしか分からない私がいた。自己の本質の話ではない。完全に見た目の話だ。ルビーの指輪の、曇りガラスの向こうは風の街な感じで、ぼやけた後頭部が小さく写っていた。一緒に観ていた某夫人が脇で「残念だったな」と爆笑しているが、それでもここに私は確かにいたのだと、ちょっと嬉しかった。
同じ調教師役だったエキストラの方の演技は、残念ながら微塵も映っていなかった。しかしそれでもあの方の演技は、ぼやけた曇りガラスの世界の中で、それぞれのストーリを背負い、ドラマにリアルを生み出す触媒となっている。それが伝わってくるのも、ちょっと嬉しかった。

(了)
文:国分 二朗
編集:椎葉 権成
著作:Creem Pan


























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