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🐎ナラが教えてくれたこと

  • 5月21日
  • 読了時間: 4分


引退馬支援のパイオニアであり、認定NPO法人引退馬協会・代表理事の沼田恭子氏が、

馬と暮らす毎日から抱く思いを綴ります。

サムネール画像:タービランス(引退馬協会所有馬/フォスターホース)とともに


キャリアの選択肢が「乗馬」しかないという壁


若くして競馬場を去る馬たちの多くは、「リトレーニング(再調教)」を経て次のキャリアを目指します。しかし、その行き先のほとんどは「乗馬」一択です。


ですが、考えてみてください。全てのサラブレッドが、背中に人を乗せて指示通りに動く「乗馬」に向いているわけではありません。激しい気性、あるいは過酷なレースでボロボロになった足腰……。血統や体調によっては、乗馬への転身が「ほぼ無理」だと思える馬たちも現実に存在します。


では、乗馬になれない馬たちに、未来はないのでしょうか?





見守っていただいている方から贈られた生牧草をほおばるナラ。たくさんの方に愛されています
見守っていただいている方から贈られた生牧草をほおばるナラ。たくさんの方に愛されています

103戦を走り抜いた「ナラ」の休息


ここで、一頭の馬の話をさせてください。名前は「ナラ」。


2023年、笠松競馬所属で103戦14勝という壮絶な戦績を残して引退した牝馬です。引退時は7歳という年齢で、北は門別から南は佐賀まで、デビューから6年の間、全国各地の競馬場を転戦し続けました。その過酷な使われ方に、ファンからは心配の声が絶えませんでした。


2023年5月に骨折し、引退。彼女を支える有志によって、ナラは山形の農家へと預けられました。

これまでの「走るためだけの移動」とは違う、静かな時間。そこで彼女を待っていたのは、まずは「心と体を癒やすこと」でした。

その後、ナラは引退馬協会の再就職支援プログラムの受講生となり、乗馬になるためのトレーニングを群馬で受けることになりました。

決して乗馬の能力が無いわけでは無いのですが、ナラは非常に頭の良い馬で、誰にでも心を許す訳ではありません。当初からその性格を見抜いた獣医さんからのアドバイスで、それでも一度は乗馬になるためのトレーニングを受けることになりました。



乗馬となるためのトレーニングを受けるナラ
乗馬となるためのトレーニングを受けるナラ

引退して3年。さまざまな角度からナラを見守ってきましたが、彼女の非常に賢く、簡単には妥協しない気性を考えたとき、不特定多数の人が乗る「乗馬」としての譲渡は必ずしも彼女の幸せではないと判断しました。


そんな時、引退後、最初にお世話になった山形の農家さんが心配して、これからの預託を引き受けてくれると言う連絡をいただいたのです。そこは、ナラにとって最も穏やかでいられる場所。これが、ナラが一番望んでいたことだと確信しました。



誰もが能力を発揮し続けなければならないのか?


「能力があるから生きられる」という考え方は、あまりにも切ないものです。


かつて出版された『生きているだけでいい! 馬が教えてくれたこと』(倉橋耀子 著/講談社 青い鳥文庫)が、今回、異例の重版となりました。昨年のドラマ「ロイヤルファミリー」の影響もあるかもしれませんが、それ以上に「ただ生きていること」を肯定してほしいという現代人の願いが重なっているのかもしれません。


この本は、私の幼なじみである倉橋さんが、私の馬との格闘人生を子供たちにも伝わるように綴ってくれたものです。彼女は、私が忘れかけていた泥臭い記憶までしっかりと覚えてくれていて驚きでした。



引退馬支援の本当のゴール


私が引退馬協会を通じてこだわってきたこと。それは、「乗馬になる優秀な馬」を救うことではありません。

「走れなくなっても、背中に人を乗せられなくても、その命に価値がある」と言える場所を作ることです。


再就職支援プログラムは、馬の可能性を広げる素晴らしいものです。でも同時に、ナラのように「ただそこにいて、穏やかに余生を過ごす」ことが許される社会であってほしい。

たくさんの方の支援が馬の「キャリア」だけではなく、その「命そのもの」を繋いでくれているのだと思います。


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引退馬協会 再就職支援プログラム


競走生活や繁殖生活を引退した馬が“次の馬生”に進むことができるよう、引退馬協会が受け入れ、乗馬のリトレーニングを実施して“再就職”までのマッチングを行う事業(馬は売買を行わず譲渡)。「ナイスネイチャ・34歳のバースデードネーション」(2022年)、「ナイスネイチャ・メモリアルドネーション 2025」では、再就職支援プログラムをテーマにご寄付を募りました。



『生きているだけでいい! 馬がおしえてくれたこと』(倉橋耀子 著/講談社 青い鳥文庫)


講談社公式サイトより「子どものころ動物が苦手だった沼田さんが、なぜ馬にかかわる仕事をするようになったのでしょう? 沼田さんと馬たちの交流と、馬を守る活動をえがくノンフィクション!」。小学校上級以上対象、青い鳥文庫の一冊です。



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Profile

沼田恭子(ぬまたきょうこ)


広島県生まれ。乗馬倶楽部イグレット 代表取締役、認定NPO法人引退馬協会 代表理事。1997年、引退馬協会の前身となる「イグレット軽種馬フォスターペアレントの会」を設立。2011年「特定非営利活動法人引退馬協会」設立、2013年「認定特定非営利活動法人(認定NPO法人)」となった。



文:沼田 恭子

構成:Yumiko Okayama

編集:椎葉 権成

著作:Creem Pan


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