『馬と人』の"背景"を象る写真家 by 田中郁衣さん

「withuma.」vol.29 田中 郁衣さん

Profile
お名前:田中 郁衣さん
年齢:36歳
居住地:東京都
Instagram:ikuet.horse 田中郁衣
第29回は、田中郁衣さん、『馬と人」をテーマに制作活動をされているフォトグラファーの女性です!
いったいどのような「withuma.」を送っていらっしゃるのでしょうか?
田中 郁衣さんの「withuma.」

本職はフリーランスカメラマンとして、都内を中心に商品撮影やWEB、雑誌等の撮影をしています。
馬が好きで、個人の作品として『馬と人』をテーマに制作活動を行なっており、そこからの繋がりで仕事として馬を撮る機会をいただくこともあります。
ここ数年は東北地方の馬の祭り『チャグチャグ馬コ』や『相馬野馬追』、そしてそれに関わる人たちをよく撮影しています。
馬を撮ろうと思ったきっかけは、地元にあった廃競馬場です。
私の地元、群馬県高崎市にあった『高崎競馬場』は、2004年の廃止から10年以上もスタンド等の施設が残されたまま、運動公園や場外馬券売り場として利用されていました。
私はまだカメラの仕事を始める前でしたが、コンクリート壁にぐるっと囲まれたその空間が異質で面白く、よく写真を撮りに行くようになりました。
2010年から内外観の撮影を始め、スタンド解体前には県の許可を得て立入禁止エリアも撮影し、2016年に高崎競馬場跡地をテーマにした個展を行いました。
廃競馬場なのでもちろん馬はいませんでしたが、馬房や手売りの馬券売り場、ゴール板、ハロン棒などを撮っているうちに、「長らくここで走っていた馬たちがいて、携わっていた人たちがいたんだな」と強く感じるようになりました。
でもここにはもう馬も人もいない。
じゃあ今いる馬たちを撮りに行ってみようと
そうして競馬場や馬の祭りなどに出向くようになりました。

私は活動の中で、馬と人の関わり方を写す、その為に、馬と人の「背景」の部分に着目するようにしています。
競馬ならレース、お祭りなら祭りの本番が最も華やかで注目されますが、それは彼らの過ごす長い月日の中の、ほんの数日に過ぎません。
ですから、馬たちが過ごす日々の生活や、本番の裏側を垣間見られるような写真を撮ることに重きを置いています。
それとは別に基本的な部分で、馬を驚かせない、厩舎・牧場のルールを守るなど、馬に関わる最低限のマナーを守るように気をつけています。
今後は、日本のいろんな馬たちに会って撮影し、馬はとても身近で魅力的な生き物なんだと発信していきたいと思っています。
競馬、乗馬はもちろん、日本の在来馬、祭り・神事などの文化的な役割を担う馬たちは昔から人の暮らしと関わってきましたし、介在動物、経済動物、愛玩動物など、さまざま分野で必要とされる馬たちがいます。
そんな馬たちと出会い、自分でも学び考えながら、馬と人との関わりを写していきたいです。
田中さんのルーツは高崎競馬にあるのですね。
ちょうど先週のwithuma『中央・地方に次ぐ第3の競馬、元ジョッキーが手がける「ソフト競馬」とは!?』に登場いただいた福元さんが、高崎競馬場で騎手をされていた方だったので、2週連続で「高崎競馬」に触れることになり、何かご縁を感じます…
『馬と人』、とても素敵なテーマですね。
『Loveuma.』のコンセプトも、「人と馬の”今”を知り、引退馬問題を考える。」であり、とてもリンクする部分を感じました。
私自身、もともと馬事業界が好きになったのは、馬の魅力も勿論ですが、「馬に関わる人」に魅了されたからでした。
そこにあるストーリーは、私たちをより一層「馬好き」にしてくれますよね。
馬のお祭り、私もとても興味があるのですが、まだ時間に余裕のあった学生の頃にコロナ最盛期を迎えまして、各地のお祭りが中止になってしまいました。
毎年行けたら行こうと思っているから駄目だと思うので、来年の『チャグチャグ馬コ』と『相馬野馬追』は先に予定に入れておこうと思います。
田中 郁衣さんの「Loveuma」

私の馬歴についてですが、気づいた時には馬が好きでした。
小学生の頃には馬をかっこいい・綺麗と思っていた記憶があります。
競馬ゲームもしていましたが、競馬より馬を育てるという過程が好きでした。
これは私自身は覚えてはいないのですが、祖父に連れられて高崎競馬場にも行っていたそうで、それがきっかけだったのかもしれません。
「郁衣が馬を見たがるから」と祖父は言っていたそうですが、それが本当だったのか、競馬に行くための言い訳だったのかは分かりません(笑)。
今は馬と人の関わりを撮っていて、見た目の美しさや力強さはもちろん、家族やパートナーとして心が通う相手だということも魅力だと感じています。
私のお気に入りの馬は、中学生の時に初めて乗馬クラブに行って乗せてもらった、リックオルフェという馬です。
青鹿毛の穏やかな馬で、何度かこの子で体験乗馬をさせてもらいました。
かわいい、大きい、温かいなと、馬という生き物を肌で感じたことを覚えています。
馬房を見せてもらった時に、馬名板に『父 サンデーサイレンス』と書いてあったのを見て、「サンデーサイレンス知ってる!すごい馬の子供だ!」と驚きました。
今思えばサンデーサイレンス産駒はたくさんいたでしょうし、乗馬として生きる道があってよかったなと思います。
結局クラブに通うことはなかったのでそれっきりになってしまいましたが、最後まで元気に暮らせていたことを願うばかりです。
私にとって彼は、馬という生き物を実感させてくれた存在でした。
物心つく前から馬と関わりを持つことは、証明するデータこそありませんが、その後の人生に良い影響を与えると、これまでに関わった人たちを通して感じます。
リックオルフェ号のお話ですが、「穏やかな馬」という部分がまず意外でした。
サンデー産駒と言えば、父譲りの気性難というイメージがありましたので、去勢はされていたのかもしれませんが、中学生の女子が体験乗馬で乗れる馬と聞いて驚きです。
消息が気になったので調べましたが、日本乗馬連盟には登録されておらず、TRC乗馬クラブ高崎に在籍していたのが最後の足取りでした。
おそらく田中さんが乗られたのもこの乗馬クラブではないでしょうか。
生きていれば30歳、その後が幸せな馬生であることを祈ります。
引退馬問題について

これまでに、クラウドファンディングやふるさと納税で、引退馬のリトレーニングなどを支援してきました。
今年はTCC会報誌での対談をきっかけにTCC会員にもなりました。
また、福島県南相馬市で相馬野馬追に出ている元競走馬たちの撮影や写真提供を通じて、祭りという馬事文化に携わる引退競走馬たちの姿を発信・応援しています。
まずは幅広く、いろんな人にこの問題を知ってもらうこと。
そして馬という存在がもっと身近で魅力的なものだと知ってもらい、活躍できる場を増やしていくことが必要だと思います。
馬というと競馬や乗馬のイメージが一般的ですが、地域の祭りに出る馬がいたり、身体的・精神的に問題を抱えている人への介在療法としての役割を担ったり、馬ができることの可能性はとても広いものだと感じています。
引退馬問題の根本的解決にはすぐには至らないかも知れませんが、人と馬、双方が今よりも良い関係を築けていけるよう、私にできることは何か考えながら活動していこうと思っています。
引退馬支援は金銭的支援だけでなく、馬たちに”生きる意味”を与えてあげることも大切だと思っています。
それは地域の一部として、社会の一部として共生していくことや、それぞれの馬に活躍の場があることも含まれるでしょう。
田中さんの仰る様に、馬の持つ可能性はとても広く大きいものです。
そして、その可能性を実現させるために、私たち人間が持つ役割も色々とあると思います。
田中さんがお写真を通して、「人と馬の”在り方”」を伝えておられるように、私にできることなんだろうと考え、今後も活動していきたいと感じました。
田中さんが撮られた素敵なお写真の数々は、Instagramで見ることが出来ます。
ぜひチェックしてみてください!
今回は、写真家として『馬と人』をテーマに制作活動をしておられる、田中 郁衣さんの「withuma.」を伺いました!
毎週定期更新してまいりますので、次回もよろしくお願いいたします!
「withuma.」では、馬にまつわる活動や、その思いについて発信していただける方を募集しております。
リモート取材は一切なく、専用フォームからアンケートにお答えいただくと、その内容が記事になります。
今後も「withuma.」を通して、引退馬問題前進の一助となれるよう、微力ながら馬事産業・文化に携わる人を発信していきますので、是非皆さまからのご応募をお待ちしております!
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協力:田中 郁衣さん 取材・文:片川 晴喜 編集:平本 淳也 著作:Creem Pan
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地方競馬の廃止事例の中で、おそらく最も強烈な印象を残したのは、2001年に廃場になった大分県の中津競馬場。
廃止は当時の市長が突然発表し、それでも同年6月3日までは開催する予定だったのが、同市の画策で急遽3月22日を以て閉鎖することに。約400名の競馬場関係の労働者が補償なしで失職し、行き場のない200頭ものサラブレッドが直ちに屠殺された。
目隠しで額を撃ち抜かれた馬、血抜きのため喉を切り裂かれた馬などの写真が週刊誌に掲載され、実名で報じられたヤマノシルエット号の凄惨な遺骸のイメージと共に、「絶対に許してはならない先例」として競馬ファンや引退馬支援者の記憶に深く刻印されたケースだと思います。
高崎競馬場についてはよく知らないのですが、田中さんが競馬場跡地で過去の風景や人馬の営みに思いを馳せ、「長らくここで走っていた馬たちがいて、携わっていた人たちがいたんだな」と感じてくださったこと、そしてその思いを個展を通じて広く発信してくださったことは、競馬場から去った失意の人々や廃馬たちへの真摯な供養となったに違いありません。
今いる馬も人もいつかは消えてゆきます。
命ある瞬間を記録することは写真家の大切な使命だと思います。
これからもお元気で、被写体への愛情とリスペクトを忘れずに撮り続けてください。☺️🐴❤️