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トライデントスピアの供養で気付いた田中博康厩舎の「風通しのよさ」🐴👨🏻‍🦲🪷

  • 執筆者の写真: Loveuma.
    Loveuma.
  • 2025年7月30日
  • 読了時間: 4分


かつて育成牧場の場長を務め、現在は曹洞宗妙安寺の僧侶。

「ウマのお坊さん」こと国分二朗が、徒然なるままに馬にまつわる日々を綴ります。


「風通しのいい厩舎の雰囲気づくり」


例えばあなたが馬主であったとしよう。

競走馬は日頃トレーニングをするアスリート故、必ず不安な部分はある。

順調というのは(色々あるがトータルとして)に過ぎない。

その色々が、逐一報告されてくる。

その色々を抱えながら、調教は強度を増していく。

色々を抱えたまま、やがて出走する。

そして残念ながら、競馬は大抵の場合負ける。

その時、どう思うだろうか?





だから一般的には、調教師の判断でGOサインが出ているうちは、ネガティブな要素をわざわざ「逐一」報告することはしない。

あえて不安にさせる必要は無いのだ。

田中先生は、この「単純に競馬を楽しませてくれない」やり方に嫌気がさした馬主さんはやはり離れていく、と言う。

それでも情報は全部共有するのがうちのやり方なんだ、と繰り返していた。


トライデントスピア(田中博康きゅう舎提供)
トライデントスピア(田中博康きゅう舎提供)

そしてこれが、先ほどいった「風通しのいい厩舎の雰囲気づくり」に直結していると想像する。

すべての材料を明らかにしたうえで、最終的な決断をしているのが「調教師」だとハッキリするからだ。

じつは今回のトライデントスピアも出走の少し前に、左前肢に不安が出たことを明らかにしている。

そして結果は、最悪のものになった。

なぜ不安があるのに出走したのだ、との非難は当然上がる。


不安があればレースを使わないという判断をするのが、一番簡単ではある。

しかし私の師である二ノ宮先生の言葉を借りれば「獣医の言うことを全部聞いていたら競走馬は作れない」。(獣医さんを揶揄するものではない)。

自分の経験と知識を総動員して、ギリギリの判断をしていくのが調教師だ。


そして田中先生が尋常ならざるのは、その判断材料をオープンにしているところ、といえる。


最初、先生から連絡を受けて、トライデントスピアについて調べた時、正論過ぎる非難を見て「なぜレース前に不安があったことを、ファンが知っているのだろう?」と思ったが、そういうことだったのだ。


不安が発生して、出走の決断をするまで、相当の思いがあった頃は想像に難くない。

結果は残念過ぎるものになったが、すべての責任を負う環境を作り上げ、責めを一身に負いながら、一切の言い訳することなく、申し訳ない、悔いが残る、防げた事故だと何度も繰り返す先生の姿に感じ入る。

全幅の信頼をスタッフから得ているのだろう。

こんな先生なら一緒に問題を共有して、どんな決断をしていくのかを傍で見ていたい。

厩舎全体で濃密な馬との時間を過ごせているのではないだろうか。


そこには、風通ししかない。気持ちのいい吹き抜けのある厩舎だと思った。


トライデントスピア(田中博康きゅう舎提供)
トライデントスピア(田中博康きゅう舎提供)

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「先(ま)ヅはその人、その道を修するなりと知らるルなり。次には、そノ道を慕うふ者出(い)で来る。後にはそノ道を同ジク学(がく)し、同ジク行(ぎょう)ずるなり。是れを道徳の顕(あら)ハるると云フなり。」


道元禅師が道心を持った仏道修行者のあるべき姿について説かれた言葉だ。


まずは修行者として知られること。

次にその道を慕い、付いてくるものが現れること。

最後に一緒になって学び、同じように修行するものが現われること。

これが道の徳が外に現れたということだと、説いている。


これを厩舎運営として、実践しているのではないだろうか。

調教師として自らの責任の取る覚悟を示し、それを慕うスタッフがやってきて、厩舎全体を支えるべく皆で共有し一枚岩になる。


一方で私は、馬主さんやファンと不安要素も全て共有するんだと聞いた時、なにも火中のクリを拾いに行かなくても、と思ってしまった。

しかし、自己保身のため逡巡する姿が周りへ伝播すれば、やがて風は滞るのだろう。


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トライデントスピア。

神話に出る三又の槍だ。

田中博康厩舎の確固たる信念の大地にそれは深く突き刺さり、やがて礎になっていくことを願ってやまない。


合掌。


当日の馬頭観音
当日の馬頭観音

(了)






文:国分 二朗

編集:椎葉 権成・近藤 将太

著作:Creem Pan

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