馬に乗ることに納得していない子供…誰もが諦めかけた時に起きた予想外の展開🐴👨🏻🦲🪷
- 6 分前
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かつて育成牧場の場長を務め、現在は曹洞宗妙安寺の僧侶。
「ウマのお坊さん」こと国分二朗が、徒然なるままに馬にまつわる日々を綴ります。
お母さんへのご褒美
そして最後の子供の出番がやってきた。
程度としては、軽くない自閉の特性がある子供。
大会の雰囲気を察してなのか、乗ることに納得していない様子であった。
馬に乗るための台にすら上ってくれない。
予測はできたので最後に回してもらった分、時間的な余裕はあった。
しかしいつまでも待つことはできない。
こういった場合、あの手この手で誘うのだが、あくまでも本人の納得と自発的な行動が前提となる。
台に足をかけては降りて、地団太を踏むといった行為が繰り返された。
「時間ギリギリまで粘って、ダメなら諦める」
ヒポトピアの代表、小泉さんは運営の方にそう告げていたが、素人目にも厳しそうなのは分かった。
いよいよリミットが迫った時。
私にとって驚くべき光景が広げられた。
小泉さんがエイッと子供を抱きかかえ、馬の上に乗せたのだ。
子供が【自分の意志が否定された】と感じてしまう行為はやってはいけない。
これは私でも知っている自閉の子への禁忌である。
これを骨の髄まで染みているはずの小泉さんが「ムリに乗せた」というのはショックですらあった。
案の定、大絶叫が響き渡る。
身体全体を使っての猛抗議が始まった。
それでも手元を見ると鞍の安全バーはしっかりと握り続けている。
無理に下りるつもりもないのだろう。
そのままスタッフが馬を引き、小泉さんがサイドに付く形で馬場へと向かっていった。
今回役目のない私は、見送る形で後方をついていく。
そばを歩いていた別の女性スタッフに質問をしてみた。
「さっき(納得させないまま無理に乗せた)のは、どうなの?」
少々非難めいたニュアンスの声色になったかもしれない。
彼女は少し困った顔でこう答えた。
「私だったら、乗せなかったかもしれない・・・でも」
そして、こう続けた
「たまにはお母さんにもご褒美が必要ですよ!」
彼女の視線に気が付いて目をやると
そこには涙の一杯溜まった瞳で、息子の勇姿を見守るお母さんの姿があった。
そうか。これはお母さんへのご褒美なのか。
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「山は山のみ見ゆるにあらず。水は水のみ見ゆるにあらず。」
道元禅師の言葉である。
禅師の言葉はちょっと難し過ぎてとっつきにくいのだが、これは言葉としては分かりやすい。
山は山として見えるがそれだけではない、という意味だ。
山と聞いた瞬間にポンと動きのない写真の遠景としての山を想像してしまうが、どうフォーカスするかでダイナミックに動きのある無数の側面が見えてくる。
いつも同じ風景の「コレが山」的なものの見方をしてしまうと、山を山として成す様々な縁起を見失ってしまう。
イメージが凝り固まっているのなら、それは「山は山のみ見ゆる」状態に陥っているのであろう。
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とはいえ、子供の方は納得がいっていない事実に微塵も変わりはない。
ずーッと泣き叫んでいる。
羽化途中の蝶の如く馬上でのけ反っている。
帰ってきたら身長伸びてるんじゃないか?くらいの勢いで全身を伸ばしていた。
競技を終え、馬場から出てきてもなお、憤怒の絶叫は続く。
既に疲れている感が出ていたが、まだ泣き続けていた。
下馬させた後、小泉さんは子供に向かって猛烈に謝りまくっていた。
それはもう真摯に必死に謝り続けていた。
そしてその後方からは、お母さんが小泉さんに涙ながらに感謝の意を伝えている。
それはもう真摯に必死に感謝していた。
絶叫と謝罪と感謝が不思議に入り乱れる中、子供はさすがに怒り飽きたのか、別の友達と普通に遊び始めていた。
大会後、片づけをしながら色々や親御さんとお話させてもらったが、皆さん全員が感動している。
健常な子供たちにとっても、あれほど緊張する場はそう無いはずだ。
ヒポトピアの子供達、親御さんたちにとっての思いは言うまでもない。
そんな話をしながら、ちょっと自分の子供時代を思い返してみたが、あれだけ多くの人に自分だけが見られている状況は無かった。
あ、あったかも。
そういえば小学校のお楽しみ会で、同学年の全生徒(200人以上)の前で芸をしたことがある。
「カエルの漫才」と称して、二人でずっとゲロゲロとだけ喋り、ダダ滑りし続けた暗黒の記憶がふいに蘇った。
なんであんなことやったのか、経緯はまるで思い出せない。
それと比べるのは、今日の子供達にも馬達にもさすがに失礼であろう、撤回して謝罪させていただく。
親御さんたちは言っていた。
「うちの子にはちょっと無理なんじゃないかと思ってました。」
「ちょっと誇らしげな子供を見れて良かったです。ありがとうございます。」
いいえこちらこそ本当に良いものをゲロゲロゲロゲロ。
またゲロゲロゲロゲロ。
ゲロゲロゲロゲロ。

(了)
文:国分 二朗
編集:椎葉 権成
著作:Creem Pan

























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