馬を管理していて思うこと🐎🩺
- Loveuma.
- 4 時間前
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引退馬支援のパイオニアであり、認定NPO法人引退馬協会・代表理事の沼田恭子氏が、
馬と暮らす毎日から抱く思いを綴ります。
サムネール画像:タービランス(引退馬協会所有馬/フォスターホース)とともに
日々、馬と暮らすなかで最も大変だと感じることは、生老病死に関することかもしれません。とくに急な病気の際には、専門となる獣医師の助けを借りる必要があります。ただし、獣医師は小動物のクリニックのように近所で開業しているケースはほとんどなく、看板を掲げていることもほとんどありません。
私の住む千葉県には、中山競馬場、船橋競馬場、競走馬のトレーニング施設など多くの競馬関係施設があり、近郊には美浦トレセン(茨城県)もあります。また、この辺りは国内で最も乗馬クラブが多い地域でもあるのですが、日常的に私が信頼して相談できる獣医師はわずかです。


日常で獣医師さんにお世話になることは少なくありません(画像は筆者撮影) 下の画像は疝痛時、浣腸を行なうときに使われる用具
まず、馬の異変を感じたときは、獣医師に電話で状況を詳しく伝えることから始まります。
馬の年齢、性別、体温、排泄状況、今の様子などを詳細に説明し、疝痛のような緊急性の高い場合もあり、電話越しに獣医師から指示をもらうこともあります。そうしないと間に合わないということも、少なくはないのです。
獣医師さんも頑張って駆けつけてくださいますが、受付から到着までに時間がかかることも多く、何時間も待つケースも珍しくありません。
運悪く、いつもの獣医師さんがお留守のこともあり、運に見放された気持ちになったこともありました。

歯の治療をおとなしく受けるピーエムイレブン(トウカイテイオー産駒)
また、日本では馬の歯科医師さんが認められていないので、歯科検診や治療の際は、必ず獣医師さん立ち会いのもとで行っています。定期的な歯のチェックやケアは、馬の健康のためにとても大切なことです。
地域で異なる獣医師の事情
引退馬協会では、北海道から九州まで全国の預託先に馬を預けて多くの馬を管理していますが、その経験から、地域ごとに“獣医師事情”が違うことに驚かされます。

北海道は生産牧場も多く、獣医師も恵まれていますが、一方で競馬場もなく、馬の獣医師がいない場合は、牛が専門の獣医師が馬を診ることもあります。実際、獣医師が少ない地域では、緊急対応でも獣医師の到着には10時間ほどかかり、交通費も別に10万円近くかかる場合もあると聞きます。
こんな状況から、馬の管理者たちは日頃から予防や観察に気を配り、基礎的な知識を身につけることが必要とされます。人間の医療格差以上に、獣医療の格差が深刻であることは非常に深刻な現実です。
国内では大動物を専門とする獣医師は少なく、体の大きな動物を相手にすることの大変さを考えると、今後も増えていくとは思えません。
さまざまな分野で求められる“馬の専門家”
獣医師に限らず、装蹄や日常の管理などでも、馬の専門知識を持つ人の養成が待たれています。装蹄師さんの数も足りていないと聞きます。業界内でも、このような問題を解決するために専門家の養成も検討されつつあります。

国内のどんな場所であっても、確かな知識を持った人が配置され、馬たちの管理が一定以上の水準で行われるようになれば、私たちも安心して馬を預けることができると思います。そのためにも、多くの人々が自分たちのパートナーともいえる馬たちをサポートし、支える仲間になってほしいと考えています。
引退馬問題も少しずつ認知され、引退馬の活躍の場も広がってきました。今後はさらに、彼らを支える仕組みや体制が整っていくことを望みます。
馬を愛する人々が一層集まり、協力し合うことで、未来の馬たちの幸せな環境づくりが進むことを願っています。
Profile
沼田恭子(ぬまたきょうこ)
広島県生まれ。乗馬倶楽部イグレット 代表取締役、認定NPO法人引退馬協会 代表理事。1997年、引退馬協会の前身となる「イグレット軽種馬フォスターペアレントの会」を設立。2011年「特定非営利活動法人引退馬協会」設立、2013年「認定特定非営利活動法人(認定NPO法人)」となった。
文:沼田 恭子
構成:Yumiko Okayama
編集:椎葉 権成・近藤 将太
著作:Creem Pan
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