「何もできなくても、いてくれるだけでいい」👍️そんな馬🐴がいてもいい
- Loveuma.
- 2 日前
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引退馬支援のパイオニアであり、認定NPO法人引退馬協会・代表理事の沼田恭子氏が、
馬と暮らす毎日から抱く思いを綴ります。
サムネール画像:タービランス(引退馬協会所有馬/フォスターホース)とともに
私が夫から乗馬クラブを受け継いでから、30年が経ちました。
当時は、20歳の馬はすでにお年寄り扱いでした。馬を最後まで飼っている知り合いもなく、馬がどのくらい生きられるのか、年を取るとどうなるのか、そのすべてが手探りでした。
獣医師さんも高齢馬の知識が今ほど十分ではなかったと思います。
当然、馬の平均寿命も明らかではありませんでした。

乗馬倶楽部イグレットの中庭で仲良く草を食む
「自由人」ジェニー(左)とハリマブライト(右・引退馬協会所有馬/フォスターホース)
2頭とも今は大切な想い出となっています(筆者撮影)
※「自由人」…乗馬倶楽部イグレット内で使用している言葉で、放牧時、自由に敷地内を散策し過ごす馬たちのこと。収牧時(朝飼いの時間)も自力で厩舎に戻ってきます
私は趣味として乗馬をしていましたが、馬を調教する技術も知識も乏しく、今振り返るとかなり無責任な経営者だったと感じます。
当時のスタッフも調教の知識を持つ人がいなかったため、馬の健康を保つのは試行錯誤の連続でした。中には制御できない馬も出てきて、扱うスタッフが怪我をしたこともあります。
フォスターペアレント制度のはじまり
手に負えなくなった馬を手放さざるを得なくなったとき、「もうこんな仕事は続けられない」と強く思ったこともあります。でも、その時にふと、「1頭でもいいから、人を乗せることができなくても、何もできなくてもいてくれるだけでいい馬がいたら」と思ったのです。
経済的に苦しい時期だったため、実際にはたとえ1頭でも、そんな馬を置くことは不可能でした。 しかし、「皆さんに助けてもらえたら、私でもできるかもしれない」…そう考えて、複数人で馬を支援する仕組みを作ろうと思いました。これが現在のフォスターペアレント制度です。

フォスターホース第1号
グラールストーン
父 ノーリュート 母 ウラカワミユキ
2011年2月5日 22歳で永眠
(画像提供/引退馬協会)

2002年「イグレット軽種馬フォスターペアレントの会」年賀状 「明るいニュース。フォスターホースが6頭になりました」 (上段左から)ナイスネイチャ、セントミサイル、ウラカワミユキ (下段左から)グラールストーン、ハリマブライト、トウショウフェノマ
それも、最初は馬のためというより、私自身のためでしたね。
当時親しくしていた競馬関係者にこの話をしたところ、「役に立たないし、儲けることもできない馬に誰がお金を出すと思う?」ときっぱり言われました。
でも、そこで諦めるわけにはいきませんでした。加藤さん(加藤めぐみ/現・引退馬協会 専務理事)と相談し、ネットを使って競馬ファンの方々に問いかけてみたところ、予想以上に応援の声が寄せられ、「やってみよう」と思えたのです。

フォスターホース第2号
ハリマブライト
父オサイチジョージ 母ウエストモア
2018年3月18日 26歳で永眠
(筆者撮影)

フォスターホース第3号
トウショウフェノマ
父トウショウボーイ 母ポリートウショウ
2016年8月16日 24歳で永眠
(筆者撮影)
「馬には生まれ変わりたくない」と夫は言った…
こうしてフォスターペアレント制度が始まりました。1997年「イグレット軽種馬フォスターペアレントの会」を立ち上げ、翌1998年2月より、1頭目のフォスターホースとしてナイスネイチャの半弟グラールストーンの繋養を始めました。
あれから28年。いまでも不思議に思うのは、なぜ私はこれほどまでに馬たちの支援を続けているのかということです。
ふと、夫の言葉を思い出します。
「馬には生まれ変わりたくない」
夫の実家は明治初期から馬産を営む家系でした。代々の思いは、口にはしなくても受け継がれていたのかもしれません。馬に対する深い愛情と誇りがあります。私はその意味を当時は理解できませんでした。馬に生まれ変わるなんて絶対にあり得ない、と…。
引退馬協会主催 会員さんとのふれあいイベント「フォスターホースと過ごす日」(筆者撮影)
(左)ハリマブライト (右)サマニターフ
目標は、引退馬に関心を持つ人を増やすこと
馬に関わる多くの人が、目の前を通り過ぎる馬たちに思いを馳せることができなかった、あの時代。当時に比べると、今、現在の馬を取り巻く状況は変わってきています。そのことで、わたしは少しだけ心が楽になる気がします。
多くの方が引退馬問題に関心を持つこと、それが解決への第一歩だと信じています。今後もより多くの人に、引退馬をめぐる様々なことについて考えてもらえるよう、努力していきたいと思います。
Profile
沼田恭子(ぬまたきょうこ)
広島県生まれ。乗馬倶楽部イグレット 代表取締役、認定NPO法人引退馬協会 代表理事。1997年、引退馬協会の前身となる「イグレット軽種馬フォスターペアレントの会」を設立。2011年「特定非営利活動法人引退馬協会」設立、2013年「認定特定非営利活動法人(認定NPO法人)」となった。
文:沼田 恭子 構成:Yumiko Okayama
編集:椎葉 権成・近藤 将太
著作:Creem Pan
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