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引退馬たちの大切な砦🐎ホーストラストについて思うこと



引退馬支援のパイオニアであり、認定NPO法人引退馬協会・代表理事の沼田恭子氏が、

馬と暮らす毎日から抱く思いを綴ります。

サムネール画像:タービランス(引退馬協会所有馬/フォスターホース)とともに


5月下旬、ホーストラストのJ放牧地がメガソーラーに転用されるという情報が舞い込みました。この場を借りて少しご報告いたします。


この放牧地は、引退馬協会が預託する馬たちも放たれている場所で、20頭が群れをなして暮らす、ホーストラストの放牧地で最も広く、美しい景観を誇る場所です。


雲海を望むホーストラスト J放牧地

(画像提供:すべて引退馬協会)



馬たちの生活空間が失われてしまう…


この土地は借地であり、ホーストラスト側ではすでにできることは手を尽くされたと伺いました。

何もせずに期限を迎えてもいいのか、私は最後まで迷いました。


総面積100haにおよぶホーストラストの中で、J放牧地は11ha程度。では、他の放牧地は今後安全なのか? 同じような問題が迫っているのではないか? 不安は尽きません。


悩んだ末に、せめて私たちができることとして、6月5日、Change.orgにてオンライン署名活動を開始しました。署名活動の内容については、ホーストラストの小西英司理事長に、事前に確認をいただいています。引退馬協会では馬主として「守る会」名でこの署名を立ち上げることにいたしました。


J放牧地で過ごす被災馬フォスターホースのハーモニィチトセチャン(右)

背後に温泉の湯けむりが見えます


仲間たちとともに草を食むJ放牧地のボス、フォスターホースのハギノハイブリッド(右)



ホーストラストで暮らす150頭の引退馬を守ることができるならとの思いから始めたこの署名ですが、皆様のご賛同をいただき署名数は順調に増えています。多くの方の思いが伝わってきます。ありがとうございます。


そして、6月9日の小西理事長の報告では、湧水町に相談して、代替地の提供について目途が調ったとのこと。J放牧地の馬たちの移動先が決まったことで私もひと安心しています。しかし、ホーストラストには他にも借地されているエリアがあることから、同様のこと(=メガソーラー開設のための土地売買等が生じること)を懸念して、当初から予定していた期日である6月26日まで、この署名活動を継続することにいたしました。


この署名は、湧水町長と鹿児島県知事に提出いたします。このままでは他の放牧地もやがてメガソーラーに変わってしまう可能性があり、馬たちの生活の場が失われるのを防止することをあらためてお願いに参ります。



引退馬にとって欠かせない場所・ホーストラスト


ホーストラストは国内で最も広い放牧地を有する養老馬預託施設ですが、預託料は最も低く設定されています。

とくに中央重賞を勝った馬であれば、助成金を受け自分の力で最後まで生きられるようなシステムで運営されてきました(現在は物価の高騰や助成金の引き下げにより、助成金だけでは賄えなくなっています)。


安価で馬を引き受けるための工夫は徹底され、そのひとつが放牧地にあると言えます。

昔から続く牧畜が盛んだった頃からの放牧地は年間を通して草が絶えることがありません。1年中温暖な気候も馬を飼う上での絶対条件です。鹿児島のこの地だからこそ、実現されていると言えるのだと私は思っています。


2018年4月のJ放牧地(引退馬協会ボランティアツアーにて)

投げ草を食べる馬たち。左端が当時、この放牧地のボスを務めていた被災馬フォスターホースのコッチャン(トーセンクレイジー。今は他の放牧地で過ごしています)

草地を維持するために多大な時間と労力が費やされています


2025年5月のJ放牧地


ソーラー発電には環境負荷や景観問題、廃棄物処理の課題がありますが、環境に優しいエネルギーのひとつとして完全には否定できません。それでも、長年、時間と手間をかけて「馬たちのために積み上げてきた限られた場所」(今回のJ放牧地のように山林の中で整備された草地)が、メガソーラー事業等を行いやすいエリアとして狙われるのだとしたら、大変残念なことだと思います。


引退馬たちが安心して、活き活きと余生を送ることができるホーストラストは、日本の中でも、引退馬の受け入れ先の最前線であり、砦と言える場所。これからも多くの馬が、オーナーや支援してくださる皆様とともに「歩み過ごせるところ」です。この場所が小西理事長やスタッフの方々の頑張りと日々の尽力により、ますます発展することを心から願っております。


署名活動は6月26日まで続けて参ります。

どうぞよろしくお願い申し上げます。


●オンライン署名サイト



●6月10日 引退馬協会 公式サイト



●Loveumagazine




Profile

沼田恭子(ぬまたきょうこ)


広島県生まれ。乗馬倶楽部イグレット 代表取締役、認定NPO法人引退馬協会 代表理事。1997年、引退馬協会の前身となる「イグレット軽種馬フォスターペアレントの会」を設立。2011年「特定非営利活動法人引退馬協会」設立、2013年「認定特定非営利活動法人(認定NPO法人)」となった。




文:沼田 恭子 構成:Yumiko Okayama

編集:椎葉 権成・近藤 将太

著作:Creem Pan


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