「偽善者だ」という葛藤の中、生産者が行う引退馬支援 by 高橋 明里さん
「withuma.」vol.84 高橋 明里さん
Profile
お名前:高橋 明里
居住地:北海道
Instagram|@akari.t_photography
年齢:41歳
第84回は、家族経営で生産牧場を営みながら、養老馬を引き取り、フォトグラファーとしても活動しておられる高橋明里さんです。
いったいどのような「withuma.」を送っていらっしゃるのでしょうか?
高橋明里さんの「withuma.」
写真:本人提供
有限会社 髙橋牧場として家族経営の生産牧場をやっており、主に自己馬、預託馬の種付け・出産をしています。
その他に保護もしています。
ここでは生産牧場とは別の動きとして、後者に挙げた引退馬の受け入れ(保護)について書かせていただきたいと思います。
2008年、私が乗馬クラブで働いていた頃に乗っていた馬が引退するとの連絡を受け、今までの恩返しするために引き取ったのが、この活動の始まりです。
当時は父からの理解は得られず反対されながらも、なるべく餌代・獣医代をかけずに、気を遣いながらやりくりして世話をしていました。
馬の平均寿命が大体25歳だろうと思っていたので、その馬がまさか31歳まで生きてくれるとは思ってもみませんでした。
その時に馬たちが教えてくれたのが、「ストレスフリー」と「仲間」が大きな支えになってるという事でした。
私のエゴを押し付けず、馬たちに任せて自由にのびのびと過ごしてもらう。
大切にしているのは、そういったところです。
現在は、ただ保護するのではなく、馬に負担をかけない形で引退後もできる仕事や、循環できる形を模索しています。
今の目標としては、保護した馬がモデル馬(撮影)として稼いでくれる事ですかね(笑)
高橋さんは、競走馬生産と養老の両方をやっておられるのですね。
2008年ですと、業界の中では引退馬のことについても、今ほど問題視されていなかった時代かと思いますし、その環境下で個人的に引き取りを始められたとのこと、大変驚きました。
また、馬に負担をかけない形でお金を生み出してもらい、自身の食い扶持を繋いでもらうことは、養老を継続していく上でとても大切なことだと感じます。
高橋さんはフォトグラファーもしていらっしゃるそうですので、モデル馬として上手く宣伝できれば、「負担をかけない形」が叶うかもしれませんね!
今回の記事でも、高橋さんの撮られたお写真を提供いただいておりますが、Instagramアカウントも記事上部に記載していますので、興味のある方はぜひフォローしてみてください!
高橋明里さんの「Loveuma.」
写真:本人提供
馬は生まれた時から近くにいる存在で、仲間意識に近い感覚になっています。
関わる上では、お互いの歩み寄りがあってのコミュニケーションだと思うので、敬意をもって接しています。
馬の魅力と感じる部分は筋肉ですかね(笑)
動きのしなやかさに見惚れます。
私が写真家としても活動してるので、特にそう見えるのかもしれませんが、走る姿は美しいですよね。
とても誇り高い生き物だと思います。
お気に入りの馬は、イースタンフラワーと、ミスターヤマノという馬たちですね。
初めて引き取った馬でもあり、我が家で乗ったり、お祭りの引き馬営業に行ったりしました(笑)
嬉しいことや楽しいこと、悲しいことや苦しいこと、全てが懐かしく愛しい記憶です。
また、この馬に限らなのですが、動物たちは私の師ですね。
過去も未来もない、今という瞬間を全力で生きている。
その力強さに圧倒されます。
馬の走る姿、私も魅了される部分です。
ただ写真に収めるとなると、群れはいつ走り出すか分からないものですから、「美しいな~雄大だな~」と思ってファインダーを覗いた時には、すでにベストタイミングを逃していたりして…
フォトグラファーである高橋さんに、放牧地等での撮影のコツをぜひ伺いたいものです…!!
お気に入りの2頭とは、たくさんの思い出があるのですね。
ミスターヤマノは、1990年の小倉大賞典(G3)を優勝した中央重賞勝ち馬ですので、古くからの競馬ファンであれば、ご存知の方もいらっしゃるかもしれません。
最期まで愛され続けて余生を全うでき、馬も大層幸せな事であっただろうと想像いたします。
引退馬問題について
写真:本人提供
支援というほどでもないのですが、私と縁が繋がった馬たちを引き取っています。
現在は5頭いるのですが、全て乗用馬(ポニーを含む)です。
これまで携わった事のある馬たちではなく、たまたま話があって、これも縁かなと思い引き取りました。
引退馬問題についてですが、ハッキリ言って犠牲を無くすことは不可能に近いと思っています。
私も長年葛藤しました。
生産して産み出す事をしているのに、救うこともしている。偽善者だなと(苦笑)
全ての馬たちを救うことはできないけど、1頭でも寿命を全うさせる事ができたらいいかなと、今はそう思っています。
そして、思っていてもあまり皆さん口に出さないかもしれませんが、引退馬問題の解決だけに焦点を当てるとしたら、生産頭数を見直す必要があるのではないかと思っています。
競走馬だけではなく、乗馬も歳をとって働けなくなったらクラブから出されてしまう現実があります。
お金にも限度がありますし、何より馬の寿命は長い。
簡単に解決できない事だと思いますが、私が今できる事をやっていくしかないと思っています。
現在は、乗用馬5頭を飼養されているのですね。
牧場のお仕事もされながら、加えて5頭のお世話をされるのは大変なことだと想像いたします。
私もこれまでに多くの方からお話を伺ってきましたが、高橋さんの仰るように生産者の方から「生産縮小」のお話が出たのは今回が初めてのような気がします。
セカンドキャリア、サードキャリアの幅が広がっていかない限り、乗馬の需要には限界がありますから、仰るように"ところてん方式"で出されてしまう馬がいますよね。
生産界の働き口や、繁殖馬の今後についてなど、生産縮小については思慮すべき点がたくさんありますが、昨今の世界情勢、アニマルウェルフェア、ないしはアニマルライツ的な動きを鑑みると、いずれ真正面から向き合う時がくる可能性も考えられます。
現場の方が今できることを継続して取り組まれるように、私たちのようなメディアも、人にとって、馬にとって、何が最もよい解決の形なのかを今後も考え、発信していく必要があると感じました。
今回は、家族経営で生産牧場を営みながら、養老馬を引き取り、フォトグラファーとしても活動しておられる高橋明里さんの「withuma.」を伺いました!
隔週月曜更新してまいりますので、次回もよろしくお願いいたします!
「withuma.」では、馬にまつわる活動や、その思いについて発信していただける方を募集しております。
リモート取材は一切なく、専用フォームからアンケートにお答えいただくと、その内容が記事になります。
今後も「withuma.」を通して、引退馬問題前進の一助となれるよう、微力ながら馬事産業・文化に携わる人を発信していきますので、是非皆さまからのご応募をお待ちしております!
▼詳細は下記バナーをクリック!
協力:高橋 明里さん
取材・文:片川 晴喜 編集:平林 健一
著作:Creem Pan
EPSONフォトコンテストの入賞作品『雪の砂漠』、タイトルも写真もとても素敵でした。
動物への共感力が非常に高い方だと想像します。それだけに、引退馬保護にまつわる葛藤も人一倍でしょう。
>生産して産み出す事をしているのに、救うこともしている。偽善者だなと(苦笑)
これを「偽善」と言われると、癌や難病の治療にあたる医師は身もフタもありません。
いろんなところで書きましたが、「どうせ全員を助けることはできないのだからという理由で目の前にいる一人の患者さんの治療を断る医者はいない」のです。
人が死ぬのを減らしたいから出産件数を制限しようという話も無論ありません。
動物の場合は、ヒトに比べれば人為的に数をコントロールすることの倫理的ハードルは低い。
しかし、ことサラブレッドにおいては生殖補助医療が認められていないため、淘汰覚悟で一定の頭数を確保しないと品種改良というそもそもの目的が達成できないという問題があります。
「一定の頭数」というのが実際には何頭ぐらいであればいいのか、根拠を示しつつ具体的な数字を割り出すことが今後の課題でしょう。
個人的には、生産頭数制限よりもさらに深くタブーに踏み込んでもいいのではないかと思っています。
たとえば、廃用予定の馬の飼養環境と屠殺プロセス。これらには大幅な改善の余地があります。
ターミナルケア牧場(仮称)のような良好な飼養環境の施設をつくり、廃用が決まった時点で馬を移して少なくとも6ヶ月~1年間はそこでストレスフリーに過ごさせる。(その間に引き取り希望があれば応じる)
屠殺場所は馬に既知の牧場の一角(出入り口がオープンな小屋など)とし、馬の不安・恐怖・苦痛を完全に除去できる瞬殺式の屠殺手段を考案する。
屠畜体を牧場から加工場に搬送するまでの保存方法を考案する。
加工利用しないのであれば、火葬にするなどして牧場付属または提携の馬の霊園に埋葬する。(いずれにせよ全ての馬のタテガミは一部とっておいて供養する)
救える馬だけでなく、救えない馬の命の終わらせ方も真剣に考えてみたい。
馬事業界、獣医学会からの提言が待たれます。