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「デビューを迎えられなかった馬たち」レイクヴィラファーム・岩崎義久 2/3



走れなければ、道は絶たれる

統計資料によると毎年競走馬登録される馬の頭数は、その年の生産頭数から10%ほど少なくなっている。つまり生産された頭数の中の約10%の馬が、何らかの理由で競走馬への道を断たれたことになる。


資料:日本軽種馬協会「2019軽種馬統計」より(Creem Pan 作)


それには、いくつかの原因が考えられる。


「先天的疾患によって命を保つことができないケースもありますし、免疫力の弱い当歳はいろいろな疾患にかかりやすく、それで命を落とすことも珍しくないです」


成長するにつれて、問題が出てくるケースもある。


「よくあるのは通称・腰フラで、腰が萎えると書いて、腰萎(ようい)と言われているもので、ウォブラー症候群(※1)という病名もありますけど、これは成長疾患なんです。この症状で廃用になる馬が結構いまして、ウチの例を取りますと多い時には全体の5%ほど出る年もありますね。気候や管理によって変わることもありますが、腰フラの原因は世界的に解明されていないようです」


その他にも、競走馬登録ができなかったりデビューに至らない要因となる骨に関係する疾患がある。


「レントゲンで影が映る、いわゆるボーンシスト(※2)ですね。疾患のある場所によっては、全く影響なく活躍する馬もいます。ただボーンシストが原因で跛行という症状が出たらかなり厳しい状況になります。跛行しなければ、ほぼほぼそのまま競走馬にはなれるのですけどね。あとはOCD(※3)という成長の過程で出てくる疾患があります。これは手術をすれば2か月ほど運動制限は必要ですけど、競走能力に影響はないですね」


それ以外にも、競走馬登録に繋がらないケースもある。


「細菌感染で重度の白内障を発症する馬もいまして、3頭ほど罹患した年もありました。現在中央競馬では両目に視力がないと登録ができませんので、白内障になって競走馬にはなれないというケースはありますね」


幼少期にトラブルが起きた馬たちについて、競走馬にするか、あるいは廃用とするのか。預託された繁殖牝馬の仔馬が罹患した場合は、最終的にオーナーがその馬をどうするのかの判断を下すことになり、牧場所有の繁殖牝馬の仔馬は、牧場側の判断となる。症状にもよるだろうが、お金をかけて疾患の治療をした馬がどのくらいの値段で売却できるかという経済的な部分も、判断材料になるのだろうか。


「(経済的な部分が判断材料になることは)ありますね。ただ骨の疾患があったり、大怪我をして競走馬になれるかどうかわからないといった時には、その馬を競走馬にするための努力はお金を惜しまずにやります」


ちなみに、子供を産んだのちに子宮動脈破裂や腸捻転等で母馬が亡くなった場合も同じだ。

「ミルクだけで育てると成長が停滞しやすく、売り馬としてはなかなか難しいと言われています。なので乳母をつけて仔馬の面倒をみてもらいます。乳母を借りるのには、業者さんにひとシーズン、つまり仔馬が生まれてから離乳までの約半年間に100万ほど支払います。またウチの牧場の元繁殖牝馬で、現在はリードホースをしているメジロシーゴーという馬に、獣医的な処置をして人工的に乳母になってもらいました。このように馬たちが競走馬のステージに進めるよう、最大限の努力ができるのは、生産者としては幸せなことだと思っています」


写真:乳母メジロシーゴーに育てられる、メジロルルドの21

(提供:レイクヴィラファーム)



このコンテンツは、映画「今日もどこかで馬は生まれる」公式サイト内「引退馬支援情報」ページにて2021年6月から12月にかけて制作・連載された記事の転載になります。


 

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