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徹底考察!誰も教えてくれない、引退馬支援の今 2/2



 

一人でも多くの人にLoveuma.をご利用いただくにあたって、まずは引退馬支援の現状について、お伝えする必要があると考えた。

2017年から始まった、映画「今日もどこかで馬は生まれる」制作プロジェクト。以来、引退馬に特化したメディア制作を行なってきたCreem Panなりの見解をまとめさせていただいた。 前編・後編の全2回でお届けする。


 


数々の引退馬支援団体


現在、引退馬支援活動を行っている団体はたくさん存在する。

これらの団体は、どのような活動を行っているのだろうか?

最近話題となっている「ウマ娘」。そのブームをきっかけとし、注目を集めているのが、「認定NPO法人引退馬協会」だ。

前身である、「イグレット軽種馬フォスターペアレントの会」は1997年に設立され、引退馬支援団体のパイオニア的な存在と言える。

この団体では、里親制度による支援と、セカンドキャリアへの再就職支援、さらに、馬を引き取って繋養する人をサポートする対外支援の、3本の柱を軸として活動している。

里親制度とは、競馬を引退した1頭のサラブレッドの余生を、複数の人からの援助で支えていく制度のことである。

セカンドキャリアへの再就職支援は、馬に対して、人との関係性を教える“馴致”を行うほか、乗馬としての基礎を教え、その馬に適した場所へと、無償で受け渡す活動である。

譲渡先では終生繋養、つまり天寿を全うするまで面倒をみることを前提とし、それに必要なアフターケアも提供している。

このプログラムに関わった馬は約30頭を数えるようだ。

さらに対外支援では、引き取り相談や預託先の紹介など、一時的な支援を行う「単発支援」と、引退馬繋養団体の設立・運営支援を行う「継続支援」の2つがある。

その実績は、フォスターホースと呼ばれている自己所有馬がこれまでに45頭、現在継続支援を行っている対外支援対象馬(サポートホース)では、32頭を数える。(2022年8月4日現在)

これとは別の形で、引退馬を繋養している団体も存在する。

株式会社TCC Japan」は、日本最大の会員数を誇る引退馬の支援団体で、会員からの支援によって引退馬の余生を支えている。また、所有している施設でホースセラピーに取り組み、障がいを持った子どもたちへの放課後デイサービスなどを事業の軸として活動している。

近い将来、引退馬を用いた観光事業も計画しており、そちらにも力を入れているようだ。この団体も、これまでに支えてきた馬の数は40頭を超える。

「馬と共に社会をゆたかに」をミッションに掲げ、経済動物としての価値を失ってしまった引退馬に事業を通して再び価値を持たせ、人と馬が共存できる形を模索しているのが、この団体の特色と言える。

他方で、引退馬をセカンドキャリアへと繋げることに特化した団体も存在する。

競馬を引退したサラブレッドは、これまでレースに勝つことを目的として、ハードなトレーニングを積んできた。

その気性は繊細であり、多感で、慣れないモノや音に敏感に反応する傾向がある。また、競馬を引退したサラブレッドは、精神面、肉体面において問題を抱えている馬が多くいる。

 

このような馬たちが、再び人と共存できるようになるまでには、再スタートまでの充電期間を必要とする。その期間は半年~1年、状態によってはそれ以上かかると言われている。そのため、専門のスタッフが、常に馬の状態に合わせたメニューで、時間と手間をかけた入念な再調教を行っている。

馬事業界では、この再調教のことを“リトレーニング”と呼ぶ。

サラブリトレーニング・ジャパンでは、リトレーニングに掛かる必要経費を、個人や企業からの支援と、行政から受け取るふるさと納税で補っているようだ。

これら民間の団体が活動する中で、ついに競馬関係者も動き出した。

競馬を主催する日本中央競馬会と、地方競馬全国協会。それを監督する農林水産省と、特別区競馬組合の各団体。更に、調教師、騎手、馬主、生産者。

競馬に関わる各分野それぞれの代表が名を連ねる「引退競走馬に関する検討委員会」は、2017年に発足した。この委員会では、“引退馬を取り巻く環境の改善と向上”について、議論と検討を行っている。

具体的な取り組みとして、「引退競走馬の養老・余生等を支援する事業」がある。

一定の条件を満たしている、引退馬の養老・余生等に関する取り組みを行っている団体等に対し、活動奨励金を交付するものだ。令和4年はこの事業に対し、3億1,000万円の予算が組まれている。

その他にも、大きく分けて3つに分類される計9つの事業に取り組んでおり、令和4年に組まれた予算の総額は、12億7,600万円にのぼっていた。




引退馬支援が抱える課題


引退馬支援が抱える課題の1つに、そもそもこの問題が、世間にあまり知られていないというものがある。

ここまで大きな規模の問題となると、多くの人の考えや、想いがあって、初めて解決への道を歩むことになると考えるが、その認知度は、世間一般ではかなり低いものとなっている。

実際、「引退馬」は、世間一般に、どの程度注目されているのだろうか?

当社は、多数の人が利用している検索エンジンを対象に、数社へのキーワード分析調査を依頼した。

その分析結果によると、2022年4月時点で、月間でおよそ250万~300万人が「競馬」関連のキーワードを調べている。

一方、「乗馬」と調べている人はおよそ2万~3万人。

では、「引退馬」になるとその注目度はどの程度のものなのだろうか。


※ 1:当社がリサーチを依頼した数社からの結果に基づいて作成

※ 2:「引退馬協会」などの団体指名の検索を除く



驚くことに、その数は、たったの4,000~6,000人にとどまっている。

「競馬」に対する注目度と比較すると、「引退馬」の注目度は、わずか0.2%未満であることが分かる。

先にも述べたように、巨大産業である競馬が抱える問題は、そう簡単に解決できるものではない。

いざ解決へ向かうとなれば、たくさんの人がこの問題を知り、考え、議論を重ねていくことが必要になる。それは、すべての引退馬を生かすにしても、“食べて供養”という考え方をするにしても同じことだ。

ただ、多くの人たちが、この問題を知り、考え、それがやがて世論となり、解決へと向かうというビジョンを持つには、あまりにも人々に知られていないというのが、現状である。

そして、たとえ「多くの人に知ってもらう」という課題をクリアしても、まだまだ解決への道のりは長い。

何度も言うが、この問題はそう簡単に解決できるものではないのである。

次に問題となるのは、肝心の「引退馬の受け皿」があまりにも少ないことだ。結局これが解決されないうちは、まず、すべての競走馬を生かすことは不可能である。

セカンドキャリア筆頭である乗馬であっても、すべての引退馬の受け皿として見ると、その市場規模では、限界があることは先にも述べた。

では乗馬の他には、どのようなセカンドキャリアがあるのだろうか。

現在、各引退馬支援団体で注目されているセカンドキャリアがある。

それが、「ホースセラピー」だ。

ホースセラピーとは、馬とのふれあいを通じて、その人が抱えるストレスを軽減させる。または、大きな動物を操ることで、自信を持ってもらうという、アニマルセラピーの一種だ。

更には、障がいを持っている人の精神機能と運動機能を向上させる、リハビリテーションとしての要素も持っている。

他のアニマルセラピーは、医療面で、心理面と精神面に効果が限られているのに対して、ホースセラピーは、医療、教育、スポーツ・レクリエーションの要素を持っており、心と体に効果が認められると言われている。

まさに“今”、研究が進んでいる分野であり、引退馬の活用が大きく期待されている。

馬は群れで生活する動物であり、人と同じく社会性のある動物だ。

子どもが学校で、社会性を学ぶことと同じように、馬とふれあい、コミュニケーションをとることで、馬の社会性を通して、人との社会性も身に付けることが出来る。

とても魅力のある分野ではないだろうか。

馬と人のコミュニティーポータルサイト「ホースセラピーねっと」では、北は北海道から、南は福岡までの、全国20か所の施設が紹介されている。

これは一般の方でも、申し込みが可能な施設である。

前半で紹介した、ホースセラピーを事業として行っている引退馬支援団体は、地元の施設と提携しており、一般の予約を受け付けていない。

つまり、実際にホースセラピーを行っている団体や施設を含めれば、その数は相当なものになると推測される。

先に紹介した、競馬関係者で構成される委員会も、ホースセラピーの発展には力を入れている。



「養老馬の繋養を行う牧場や引退競走馬の受入先の調整等を行う団体への奨励金の交付」に対する予算が、3億1,000万円も組まれている。

ホースセラピーが、引退馬の利活用として期待されていることの表れだ。

ここまでで、乗馬とホースセラピーというセカンドキャリアについて紹介した。

だが、この他に、大きな規模で引退馬の利活用となりそうなものは、現在のところ見当たらない。

行き先がなければ、引退馬は生き続けることができない。

馬の利活用方法が不足していることも、大きな課題と言える。

「課題」は、これだけにとどまらない。

次に“リソースの不足”である。

これは馬事業界全体に共通している事で、まず、圧倒的に人手が不足している。

大人しい乗馬とは違って、引退して間もない競走馬を、素人が扱うのは“キケン”だ。

競馬関係者が口をそろえて、「サラブレッドは危険な動物」と言う様に、それほど扱いが難しいということだ。

それが、リトレーニングのフェーズになってくると、更に扱える人間は減ってくる。

いわば、“職人”の域と言える。

引退馬を扱える人はそう多くはなく、また、そういった人材は、すでにそれぞれの牧場や乗馬クラブなどで活躍しているため、まだ新しい引退馬支援の現場では不足しているのだ。

委員会の方でも、この人材不足を大きな課題と感じているようで、「馬を安全に取リ扱う人材を養成するための講習会の開催」といった名目で、令和4年には3,000万円の予算を組んでいる。




また、土地も不足している。

NPO法人ホーストラストでは、“馬の適正な飼養環境”として、1頭当たり2,000坪(0.7ha)を確保している。

前半でも紹介したように、令和3年の登録抹消数は、約10,000頭であった。

そこには移籍する馬も含まれるため、すべてが引退馬になる訳ではないが、仮に、そのすべてが引退馬になった場合、そのすべてを養うには、7,000haが必要になる。

わかりやすく換算すると、東京ドーム約1,500個分、東京都杉並区2つ分の土地が必要になる。

もちろん、多くの乗馬クラブや、引退馬支援団体は、それほどの土地を確保できていない。

馬は、馬房一つと、馬場での運動があれば、“一応”生きていくことはできるが、引退馬にストレスなく過ごしてもらうには、それ相応の土地の広さも必要になるということだ。

さらに、金銭面も同じく不足している。

現状、多くの引退馬支援団体は、引退馬を想う人たちからの金銭的支援を頼りに、馬を養っている訳だが、事業として見れば支出の一方なのだ。

毎年、たくさんの引退馬が生み出される今、そういった人たちからの支援だけでは、すべての引退馬を養っていくことはできない。

引退馬の中には、もちろん、怪我や病気などの理由により、経済的に貢献することが困難な馬もいるが、まだ若くて元気な馬もたくさんもいる。

ただ、活躍の場がないだけだ。

もしも、引退馬が、自らの飼養管理に掛かるお金を、自らの手で生み出すことができたならば、もっと多くの馬が生き続けられることにつながるだろう。

馬の利活用や、馬が社会に貢献できる場所、仕組みを作っていくのは、私たち人間の仕事になる。たくさんの人がこの問題を知り、議論を重ね、馬の利活用について考えていくことが必要なのだろう。



ゴールなき引退馬支援


ここまで、引退馬を取り巻く環境を見つめ、引退馬が行方不明となっていることの背景や、引退馬支援が抱える課題などを考察してきた。

では、その課題に対して、どこまで取り組めば、この引退馬問題は“解決した”と言えるのか?

引退馬支援の“ゴール”とは、いったいどこにあるのだろうか?

「すべての引退馬を生かす」。

これは、引退馬支援を行っている人から、あくまで理想としてではあるが、語られることの多いフレーズだ。

ただ、引退馬支援を行う人々が、本気で「すべての競走馬を生かす」ことに取り組むとなっても、その前にやるべきことがある。

それは、当然、大きな目標を持つのであれば、そこに至るまでの道のりに、具体的な中間目標を設定していかなければならない。

しかし、それが今の引退馬支援には存在していない。

これこそが、引退馬問題を解決するということにおいて、一番の課題である。

先に紹介した引退馬支援団体であっても、これまでに“生かす”ことができた引退馬は、ごくわずか。事実として、毎年生まれる引退馬に対して、1%にも満たない数だ。

確かに、引退馬支援を行う人や、団体は増えている。

生かすことのできた引退馬の数も、増えている。

ただ、「すべての引退馬を生かす」という理想を実現することは、今の引退馬支援の規模と照らし合わせると、極めて厳しいことであると考えられる。

更に忘れてはいけないのが、「すべての引退馬を生かす」ことで生業を失う人がいることだ。

前半の“セカンドキャリア”の部分でもお伝えしたように、引退馬は、乗馬として競馬場を去った後、家畜商業者の手へと渡り、肥育期間を経て、肉へと姿を変える。

ここにも、畜産としての1つの産業が成立しており、そこには、需要と供給のバランスが存在している。というよりも、ここまでを含めて“競馬産業”と呼ぶことができるだろう。

もし、「すべての引退馬を生かす」ことになれば、これら畜産に携わる人々が生業を失うことにつながる。

さらに供給が途絶えた馬肉の価格は高騰し、馬肉を扱う精肉店、飲食店、私たち消費者までもがその影響を大きく受けることになる。

生産頭数の縮小が難しいという部分での考え方は、ここにも通用してしまうのだ。

今の引退馬支援は、それぞれの団体に違いはあるものの、現場で馬を養っている人たちは、目の前の命1つ1つに向き合うことが、“今私たちにできること”となっている。

1頭の引退馬を生かすことができたならば、また次の1頭を生かす。この繰り返しになる。

勿論、今まで放置されてきたことを考えれば、少しでも生かすことが出来たのは大きな進歩かもしれない。

ただ、引退馬問題というものが大きすぎるゆえ、どうしても地道に映ってしまう。

現実は魔法のようにはいかない。

“生き物”が相手という以上は、目の前の1頭に向き合うことが大切となることは、よく理解できるが、やはり具体的な目標というものが必要だろう。

先に紹介した委員会が発足して以降、様々な事業によって、引退馬支援をする人たちを援助してきた。これにより、現場での支援活動はより進み、その分、多かれ少なかれ、引退馬を生かすこともできている。

本記事と同じく、『Loveumagazine.』で公開中の、「責任と義務」に登場した、引退馬支援に精力的に取り組んでいる鈴木伸尋調教師は、この委員会のメンバーでもある。

鈴木調教師によると、「現在私たちが把握している養老余生の馬たちの頭数はおそらく2,000頭弱くらいなんですよ。」ということだ。

先にも紹介した通り、年間で10,000頭近い引退馬が生まれる。それも毎年続くので、その数はどんどん積み重なっていく。把握できている2,000頭だけでは、到底、数が及ばないことが分かる。

まず全体像を見ない事には、目標の立て様がない。

ただ、今の日本の競馬業界には、その全体像を見るための仕組みが存在しないため、具体的なゴールも、中間目標も、立てることが出来ていない。

馬は、命ある生き物なので、すべてを“同時並行”で進めなくてはいけない。

それゆえに、現場での取り組みは、「まずは、目の前の1頭を。」というものに落ち着かざるを得ないのだ。

こういった事情がいくつも絡み合って、引退馬問題は大きく、かつ、複雑になっている。


まずは知ることから


ここまでお読みいただいた方には、“引退馬支援の今”がどのようになっているのかを、少しでも知っていただけたかと思う。

しかし、先にも紹介した通り、一般の認知度はまだまだ低いのが現状だ。

物言わない馬のそばで、私たちは日々思考を巡らせている。

だが、馬のためを想いながらも、人は人の価値観で決断を下すほかない。

そのためには、正しい知識と、確かな根拠が必要だろう。

たくさんの人がこの問題を知り、知恵を出し合い、引退馬支援の“ゴール”を設定して、解決へと進むために、まずは一般の人たちが、この問題の正しい情報を知ることが必要だと考える。

 

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文・制作:片川 晴喜

デザイン:椎葉 権成

協力:緒方きしん

監修:平林 健一

著作:Creem Pan


 


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1 Σχόλιο


HisMajesty Graustark
HisMajesty Graustark
28 Αυγ 2022

引退馬支援活動は素朴な動物愛護精神から始まったかもしれませんが、現在の支援者の多くは最終的な屠畜という選択肢も排除せず、その上で「共生と利活用」の重要性を意識していると思います。なので、「馬を殺すのはかわいそうだから助けましょう」ではなく「馬は人の友であり資源である貴重な動物だから大切にしましょう」という形でメッセージを発信したいですね。

「資源」としての一面が明確に認識されれば、肉用馬の需要やトレーサビリティ導入の必要性にも理解が得やすいのではないでしょうか。特に食肉にする場合は、防疫対策として各個体の生涯追跡が義務化されて当然と考えます。

より望ましいのは「生きた資源」として利活用することですから、観光やセラピー以外にも色々と可能性があります。

馬の放牧による植生の保存・改良、馬糞堆肥を使う農業、使用済み敷料を使うバイオマス発電、更には馬体から発生する生物電気利用などの分野で、多数の馬を一度に活かす方法を確立したい。これらが事業として成立すれば、引退したサラブレッドは人間との接触を嫌がらない程度の馴致がされていればよく、必ずしも乗用馬にする必要はないと思っています。人を乗せるストレスから解放され、のんびり暮らしてよく食べよく肥えよく出してくれればいいのです。(こういうの、全部「グランドデザイン」に入れたい)

テレビやラジオなど主要メディアには、競馬以外の馬事関連の常設番組を作ってほしいものです。その中に「引退馬」のコーナーを作り(いや、番組丸ごと引退馬でもいいんだけど)、全国の養老牧場やリトレーニング施設、セラピー施設、厩務をイチから学べる場所、売却/賃貸希望の牧場などの紹介をする。「友であり資源である」というメッセージを上手に盛り込んで、良質なエンタメ性と絡めながら、引退馬支援・利活用の気運とAW(アニマルウェルフェア)の意識を高めていく。いずれはAW基準にかなう肥育のモデル施設の紹介も堂々とできるようになれば👍✌️🙌


通常番組以上に制作者の意欲と創造性が問われますが、思いっきり挑戦しがいのあるプログラムになること間違いなしです。出来次第では海外からも注目されるでしょう。(馬好きは世界中にいますから)

メディア関係者はぜひご一考を!


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