Loveuma.が聞く。引退馬の現実は、そもそも"問題"?|アンケート調査 vol.1 大解剖 1/2

Loveuma.は取材と並行して引退馬問題についてのアンケート調査を行い、世論を可視化することで引退馬問題全体の前進を目指しています。
これまでの取材を通じて、私たちは引退馬をめぐる「問題意識」と、それに紐づく解決策が多様であることを身をもって実感してきました。問題ではないと考える方にも出会いました。
そこで2022年10月から1カ月半、本サイトを訪問した人々を対象に「引退馬問題とは一体どういうものなのか」を尋ねるアンケートを実施。引退馬の問題はどこにあるのか。問題は解決するのか。人々の声に耳を傾けました。


アンケート調査vol.1「引退馬問題は解決すべき?」より作成
今回のアンケートでは「引退馬の現実は問題か」「何が問題か」「どのような解決策が考えられるか」「支援をしているか」を尋ねました。その結果、約1ヶ月半で競馬や乗馬に関心のある人々を中心に10代から70代までの幅広い属性の声が集まりました。


アンケート調査vol.1「引退馬問題は解決すべき?」より作成
引退馬の現実 9割が問題視

アンケート調査vol.1「引退馬問題は解決すべき?」より作成
まず「引退馬の現実は問題だと思いますか?」という設問について、多くの人が「問題だ」と回答しました。ただし今回のアンケートはサイト・SNS閲覧者から集めているため、関心の高い層による回答が多くを占めていると考えられます。引退馬に関心がない人々はどう感じているか、今後も引き続き調査・取材を重ねていく必要があります。
続いて、同じ設問を馬との関わり方別に集計しました。
比較的回答数の多かった「競馬ファン」「乗馬ファン」「馬との関わりはない」人々を抽出し、全体の6割強の「競馬属性(競馬ファン+競馬関係者)」、2割の「乗馬属性(乗馬ファン・乗馬関係者)」、1割の「馬との関わりはない」に分類しています。

アンケート調査vol.1「引退馬問題は解決すべき?」より作成
「はい」「どちらともいえない」について大きな違いはみられませんでしたが、「馬との関わりのない」層に比べて、馬と何らかの接点のある層の方が「どちらとも言えない」と考える割合がやや多いように感じます。
これは馬と何らかの接点を持ち、経験や知識を蓄積するにつれて「引退馬問題」の難しさを知り、「どちらともいえない」と感じるのではないかと推測されます。
今回、「問題ではない」と回答した層については十分な回答数が得られませんでした。ただ「問題ではない」の回答の中にも、支援団体や飼養のあり方が適切であるかどうかは十分精査していくべきという意見が聞かれました。今後もLoveuma.は、さまざまな意見を持つ人々の声に迫っていきます。
引退馬の現実 どこに問題があるか
Loveuma.では取材を通じて、人々が感じる問題意識にはいくつかのパターンがあるのではないかと感じてきました。
具体的には次の通りです。
(1)問題は、競走馬が天寿を全うできないケースがあること
疾病や屠畜、飼養環境などさまざまな事情で寿命いっぱいまで生きられないことが考えられます。
(2)問題は、競走馬として生まれたにも関わらず、食肉になるケースがあること
動物の餌になるという説もあります。
(3)問題は、競走馬が引退後に行方が分からなくなるケースがあること
引退時に主催者やメディアが引退後のあり方を伝えることもありますが、その後どうなるのかは必ずしも明らかにはなっていません。
(4)問題は、競走引退後の活躍の場が少ないこと
引退後の活躍の場としては、乗馬クラブや観光活用、セラピーなどが考えられますが、十分に広がっていないという声があがっています。
そこで、人々が本当にこれらを問題だと感じているのか、他にも問題はあるのかについて尋ねました。

アンケート調査vol.1「引退馬問題は解決すべき?」より作成
「天寿を全うできない」「行方がわからなくなる」「活躍の場不足」について、それぞれ問題だと考える割合が多い一方で、どちらともいえないという立場も目立ちます。
特に天寿を全うできないことについては、「どちらともいえない」が比較的多いように見受けられます。自由記述回答を紐解くと、次のような意見がありました。
劣悪な環境で天寿を全うすることになったら馬にとっては不幸ではないか
人手、飼養環境、資金など、リソースに限りがある
全ての馬が天寿を全うできるのは現実的に不可能
回答が分かれるのは、一つの課題から生じる他の課題を懸念してだと考えられます。
「行方不明」についても同様です。問題だと感じる割合は多いながら、やむを得ない事情が考えられることから、問題と断言しづらいところがあります。
たとえば、さまざまな事情で手放さざるを得ない。名の知れた馬の見学者対応などから、管理者の事情で伏せたい。これらの是非はともかく、管理者やオーナー側のさまざまな事情が考えられます。また、開示することで屠畜への影響や乗馬クラブへの風評被害なども起こり得ます。
「活躍の場」を増やすには、飼養先や担い手など、人材や環境、資金などの十分な資源が必要です。一朝一夕で解決するものではないことはよく知られている通りです。
意見分かれる「食肉になるのが問題」
一方、(2)食肉になること、すなわち引退馬の屠畜については特に意見が分かれました。

アンケート調査vol.1「引退馬問題は解決すべき?」より作成
自由記述を見ていくと、競走馬として生産しながら食用肉として消費することへの違和感がある一方、「牛や豚なども食べているのに馬肉だけが否定されるべきではない」「馬肉は文化として必要」「産業を守るべき」という声も見受けられます。
Loveuma.としては、意見が大きく分かれることを踏まえ、慎重に配慮しながら取材を重ねていきたいと考えています。
情報・リソース不足、主催者や馬主の責任を追及する声も
Loveuma.が想定した4つの問題意識の他に問題があるかについても尋ねたところ、157件もの自由記述回答がありました。あらためて引退馬をめぐる問題意識が多様であることが浮き彫りになったといえます。
特に多く見られたのが、「(3)引退後に行方不明になること以外の情報不足」「馬主・農林水産省・JRAなど競馬主催者の対応が消極的に感じる」「飼育環境に関する課題意識」です。

アンケート調査vol.1「引退馬問題は解決すべき?」より作成
引退馬をめぐる情報について、次のようなものを求める声が目立ちました。
客観的な統計やデータなど、信頼できる情報。
何が起きているか(引退後の流れ、屠畜にいくまでの実態)
支援団体が信頼できるかどうか。悪徳(と思われる)事業ではないか。
関係者の考え。「触れてはいけない」というタブー意識があるのではないか。
これらは今十分に発信されているのか、なぜ発信できていないのか、多面的に検討していく必要があります。
一方で、自由記述において、「全てを明らかにすることが最良ではない」という考えがあったことも見逃せません。いずれも慎重に発信のあり方から考えていく必要があります。
また、馬主・農林水産省・JRAなど競馬主催者の対応が消極的に感じるという意見も多数届きました。「莫大な売り上げに対して予算配分が不十分ではないか」「広告の予算配分、広告内容は適切か」「馬主が最後まで面倒を見ないのは無責任ではないか」といったものです。これらについても引き続き事実を追及していきたいと考えています。
リソース不足については、これまでも紹介した通りさまざまな支援や改善の障壁となっていると考えられます。また、寄付やクラウドファンディングなどの善意に基づく資金に依存しているのではないかという指摘もありました。持続可能な支援・経営に関わる論点です。
動物福祉に配慮した飼養環境が保たれているかについても多く投げかけられました。現在、世界的に動物福祉に関する議論が加速しています。引退馬にとっての福祉とは何か、適切な飼養環境とは何か、問い続けていくべきトピックだと再認識したところです。
さらには「競走を目的に生産したにもかかわらず、天寿を全うさせないことを倫理的に看過できない」という記述も見られました。それらの多くに「人の都合で生まれたのにもかかわらず」という言葉が散りばめられていたのも印象的です。
以上のように、「問題か」「何が問題なのか」という問いだけでも多様な論点があることが浮き彫りとなりました。
次回は「どのような解決策が考えられるか」「支援をしているか」について集計結果を掘り下げ、考察を深めていきます。
参考:アンケートの設問
【回答者の属性について探る設問】
1. 年齢をご記入ください。
2. 引退馬問題に関心がありますか?
3. 馬との関わり方について選んでください。
【問題意識について探る設問】
4. 引退馬の現実は問題だと思いますか?
5. Q4.で「いいえ」と答えた人に質問です。その理由をお答えください。
6. Q4. で「はい」「どちらとも言えない」と答えた人に質問です問題だと感じる理由の一つとして、競走馬が天寿を全うできないケースがあることが挙げられますか?
7. Q4. で「はい」「どちらとも言えない」と答えた人に質問です。問題だと感じる理由の一つとして、競走馬として生まれたにも関わらず、食肉(動物の餌を含む)になるケースがあることが挙げられますか?
8. Q4. で「はい」「どちらとも言えない」と答えた人に質問です。問題だと感じる理由の一つとして、競走馬が引退後、行方が分からなくなるケースがあることが挙げられますか?
9. Q4. で「はい」「どちらとも言えない」と答えた人に質問です。問題だと感じる理由の一つとして、競走引退後の活躍の場が少ないことが挙げられますか?
10. Q4. で「はい」「どちらとも言えない」と答えた人に質問です。その他で問題だと感じる理由がありましたらお答えください。
【解決について探る設問】
11. Q4. で「はい」「どちらとも言えない」と答えた人に質問です。引退馬問題解決のためには競走馬の生産頭数を制限するべきだと考えますか?
12. Q4. で「はい」「どちらとも言えない」と答えた人に質問です。引退馬問題解決のためには競馬はなくなるべきだと考えますか?
13. Q4. で「はい」「どちらとも言えない」と答えた人に質問です。引退馬の問題は解決すると思いますか?その理由も併せてお書きください。
【現在行っている支援について探る設問】
14. 現在行っている引退馬支援はありますか?
15. Q14.で「ある」と答えた方に質問です。その内容をお書きください。
16. Q14.で「ない」と答えた方に質問です。支援しないまたはできない理由は何ですか?
【その他の設問】
17. ご意見がありましたらご記入ください
18. メールアドレス
19. 性別
文:手塚 一十三
デザイン:椎葉 権成
制作:片川 晴喜
協力:緒方 きしん
監修:平林 健一
著作:Creem Pan

監修者プロフィール:平林健一
(Loveuma.運営責任者 / 株式会社Creem Pan 代表取締役)
1987年、青森県生まれ、千葉県育ち、渋谷区在住。幼少期から大の競馬好きとして育った。自主制作映像がきっかけで映像の道に進み、多摩美術大学に進学。卒業後は株式会社 Enjin に映像ディレクターとして就職し、テレビ番組などを多く手掛ける。2017年に社内サークルとしてCreem Panを発足。その活動の一環として、映画「今日もどこかで馬は生まれる」 を企画・監督し、2020年に同作が門真国際映画祭2020で優秀賞と大阪府知事賞を受賞した。2021年に Creem Pan を法人化し、Loveuma. の開発・運営をスタートする。JRA-VANやnetkeiba、テレビ東京の競馬特別番組、馬主協会のPR広告など、 多様な競馬関連のコンテンツ制作を生業にしつつメディア制作を通じた引退馬支援をライフワークにしている。
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以下は私の個人的な意見です。
サラブレッドの食肉転用の是非は、捕鯨🐳の賛成・反対の議論にちょっと似ていますね。
どちらも倫理的/人道的な視点から論じられがちですが、私見では、伝統的な食文化に対して「道徳」に基づく批判は適切でないように思います。
(科学的な裏付けがあって)種の絶滅などが危惧されているのでない限り、「善悪」とか「正邪」の問題ではなく、コミュニティ(地域・民族・職能団体etc.)による味覚や嗜好や習慣の違いと割り切った方がいい。
世界には、馬や鯨どころか犬を食べる文化もある。ウサギはかわいいペットにもなれば立派な食材にもなるのです。
ただ、伝統食としてでも自衛隊の給食としてでも、元競走馬を食肉に供するなら、他の食品と同様、トレーサビリティを徹底すべきだと思います。
たとえば、最低でも「原産地:〇〇県、種類:サラブレッド(単に「馬肉」ではダメ)、性別/年齢:♂ or ♀/◯歳、肥育者:〇〇、加工者:△△」を明記する。
さらにチャレンジしてほしいのは、牛トレーサビリティ法に倣って馬トレーサビリティ法を制定し、牛同様に「個体識別番号」の表示を義務付け、その番号から「元の競走馬名」をたどれるようにすること。
「この肉は、20XX年に▲△▲ステークスを勝った****産駒の●●●●●●号なんだなぁ」と納得しつつ、それでも平常心でおかわりを重ねて美味しくいただくことができるなら、🫵
あなたは真正の馬肉文化継承者です。私と違って!☝️😉
引退馬の早期屠畜問題については、「死んだ馬が生きた馬よりも資源として有用であるか否か?」、さらに言えば、資源の中でも、「人の心身の健康やQOLの向上に役立つ持続可能なソフト・リソースとして有価値であるか?」などの点を基準にして是非を判断するのが合理的だと思います。
「走らなくなった馬は生きているより死んだ方が役に立つ」という固定観念に挑戦するなら、引退馬支援者側もきちんと反証をそろえて理論武装し、具体的な解決策を然るべき相手に提言しなければなりません。
Loveuma.の活動からその道筋が見えてくると期待しています。😊👍
運営さん、いつもありがとうございます。
「世論を可視化する」地道な作業に、深々と頭が下がります。
アンケートの回答者は、30代~50代が中心になっていますね。注目です。
なぜならこの年代は、JRA始め競馬事業関係者が競馬振興(ファンの獲得)のターゲットにしているエイジグループと重なるからです。
JRAは、競馬の持続的な普及・運営という観点から、一昔前までは主に50代へのアピールを狙っていましたが、近年の競馬ゲームの活況などから、より若い年齢層をも競馬ファンとして取り込むことに注力するようになりました。
若手の人気タレントのCM起用もその一環です。
現在のJRAのプロモーション・キャラクターは20代・30代(後半)・50代。
彼らと同年代の人々が、「競馬ファンであると同時に引退馬問題にも関心がある」という特徴を備えていることを、今次のアンケート結果が示しています。おそらく、20年前には見られなかった傾向でしょう。(以前は「競馬ファン」と「引退馬支援者」が、数の上でも意識の面でも、もっとハッキリ分かれていたと思います)
現役の競馬ファンの間で、引退馬に対する価値観が大きく変化してきたことがわかります。
JRA・NARとしては、今後もファンに支持される持続可能な競馬事業を営んで行きたければ、現役・引退にかかわらず「競走馬の福祉」を無視することはもはやできないと気づいているはずです。
依然として課題は残るものの、少なくとも競走馬を無尽蔵の消耗品として安易に、機械的に、使い捨てる時代は終焉を迎えつつあると感じています。✌️☺️