🐎馬の暮らしを守るということ
- Loveuma.
- 2 分前
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引退馬支援のパイオニアであり、認定NPO法人引退馬協会・代表理事の沼田恭子氏が、
馬と暮らす毎日から抱く思いを綴ります。
サムネール画像:タービランス(引退馬協会所有馬/フォスターホース)とともに
引退馬協会では、月に一度、預け先の馬たちの様子を会員さんに報告しています。担当者が直接牧場を訪れて取材することもあり、牧場の方とのやり取りも重要な情報源です。
預託馬の中には、長年の繁殖生活や高齢により病気や怪我を抱える馬も多く、彼らが痛みなく穏やかに過ごせるよう常に配慮しています。その一環として、水の問題は非常に重要です。馬房や放牧地に、常にきれいな水を用意することは、円滑な健康管理のために欠かせません。

ナムラシゲコとテンセイフジ(引退馬協会フォスターホース)
放牧地の出入り口に水桶が置かれています。小葉松牧場にて撮影(※画像はいずれも引退馬協会提供)
馬の「渇きからの自由」を守りたい
アニマルウェルフェア(動物の福祉)の基本原則として、「5つの自由」があげられます。
空腹と渇きからの自由
不快感からの自由
苦痛、傷害または疾病からの自由
正常な行動を実行できる自由
恐怖および苦悩からの自由
「空腹と渇きからの自由」、その解釈には経験とともに個人差があることを感じます。例えば、「放牧地で牧草を食べていれば、それだけで充分」「雪を舐めていれば、水は不要」「飲まないので水を用意しなくてもいい」という考えもあります。
馬は臆病な動物で、新しいものを受け入れるには時間が必要です。冬場の放牧地でお湯を用意しても「飲まなかった」と早々に結論を出す方もおられますが、お湯を与えることを続けていると、それを馬たちが待ち望む姿を見ることができます。
馬たちが安心して水を飲める環境を作ることは、便秘疝や脱水の予防にもつながります。また、近年は酷暑により馬が熱中症になることも少なくありません。水の問題は、若い馬に限らず養老馬を預かる牧場にとっても大切なことです。 アニマルウェルフェアの「5つの自由」は動物に携わる者ならどれも当たり前に考えることですが、ふだんからより意識して、馬が暮らす環境を整えていきたいですね。

放牧地に運ばれるぬるま湯を待つバトルプラン(引退馬協会フォスターホース)
MTHケイムズにて撮影

馬房で水を飲むタービランス(引退馬協会フォスターホース) 乗馬倶楽部イグレットにて撮影
「最後まで馬を見る」ために必要なこと
近年のちょっとした引退馬ブームから、一部ではありますが、キャリアを終えた養老馬の預かりなら楽にできそうと思われる方々がおられると聞くことがあります。
でも、それは大きな間違いだと感じます。
確かに、養老牧場で暮らす引退馬たちはいろいろな経験を重ね、学習をした末の落ち着いた年齢になっているので、若い馬に比べて扱いは楽かもしれません。しかし、馬の養老とは、その馬を最後まで見ていくということであり、歳とともに若い頃にはない体調不良などさまざまな現象も起こるようになります。

在りし日のジェニー(左)とハリマブライト(右・引退馬協会フォスターホース) 乗馬倶楽部イグレットにて撮影

筆者(左)とともに散歩に出かけるポニーのショコラとジェニー 乗馬倶楽部イグレットにて撮影
昨年うちのクラブで35歳まで長生きをしてくれたジェニー(クォーターホース)は、手の掛からないほうだったと思いますが、晩年は自分で起き上がることがだんだんと難しくなり、その不安から、横になっては寝ないようになりました。
しかし、数日に一回は疲れから横になることがあり、そこからまた起立できなくなります。
そんなジェニーをみんなで起こし、痺れた脚をマッサージしながら、ジェニーが生きることを諦めないなら、それに応えていこうとみんなが寄り添いました。ジェニーは何度も立ち上がり、最後まで頑張りました。
こんなことを考えると、馬を扱う仕事の根底には、やはり馬に対する愛情があることが必要と思います。そして、日常のひと手間を惜しんだりする人ではなく、馬に対してその手間をかけることを喜ぶ人が求められていると実感します。
これは、効率を求め、より時短、より楽な方法を選ぶ今の時代には反していますが、その手間に対して、馬は必ず応えてくれます。馬たちからかけがえのないプレゼントを受け取っていることに、気づかれている方も多いのではないでしょうか。
馬に限らず、生き物と暮らすということは、相手に対して責任を持ち続けるということなのかなと、最近、切に感じます。
Profile
沼田恭子(ぬまたきょうこ)
広島県生まれ。乗馬倶楽部イグレット 代表取締役、認定NPO法人引退馬協会 代表理事。1997年、引退馬協会の前身となる「イグレット軽種馬フォスターペアレントの会」を設立。2011年「特定非営利活動法人引退馬協会」設立、2013年「認定特定非営利活動法人(認定NPO法人)」となった。
文:沼田 恭子
構成:Yumiko Okayama
編集:椎葉 権成・近藤 将太
著作:Creem Pan
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