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香港・日本、両競馬大国の引退馬を取り巻く“決定的な差”とは 1/2



Loveuma.ではこれまで、「Loveuma.が聞く。引退馬の現実は、そもそも"問題"?|アンケート調査 vol.1 大解剖」「徹底考察!誰も教えてくれない、引退馬支援の今」などの記事で、日本国内の引退馬支援における活動や世論を独自の視点でまとめ、発表してきた。

そうした中で、引退馬支援には年金制度が必要との声を耳にするようになった。これは、競走馬や乗用馬としての役割を終えた馬たちが、その後の馬生を少しでも幸せに全うするために、年金制度を導入して支給すべきというものだ。

現在、日本では、公益財団法人のジャパン・スタッドブック・インターナショナルが「引退名馬繋養展示事業」として、引退した重賞勝ち馬に月額2万円(地方競馬のダートグレードレース勝ち馬は月額1万円)の助成金を支給している。しかし、対象馬が限定されており、金額的にも十分ではないとの声が強い。

日本と同様に競馬が開催されている香港では、競走馬をデビューさせる段階で馬主からデポジットを徴収し、引退後の費用に充てている。また、競馬の主催団体が競走馬引退後のリトレーニングも主導しているという。

引退馬支援において先進的に映る香港競馬のこうした取り組みの中で、日本の引退馬支援に活かせるものや、参考になるものはあるのだろうか。今回の記事では、香港競馬の引退馬支援制度の特徴や課題について、具体的事例を踏まえて掘り下げていきたい。

香港競馬の概要

香港の引退馬事情を見るにあたり、まずは香港競馬の基本データから触れておきたい。

毎年12月に開かれる国際GⅠの祭典「香港国際競走」で日本馬が多数活躍していることもあり、香港で競馬が行われていることは、多くの日本の競馬ファンにもよく知られている。

現地でレースを主催しているのは香港ジョッキークラブ(HKJC、香港賽馬會)。「ジョッキークラブ」という名前だが騎手の組合団体などではなく、香港で開かれる競馬全体を統括しており、現地のレースを主催するとともに、日本や欧米などで開かれる主要レースの馬券発売も行っている。

HKJCは競馬だけでなく、香港の宝くじや海外サッカーくじの販売も主催しており、2021/22シーズンは総売り上げに占めるサッカーくじの売り上げ(1,438億香港ドル)が競馬の売り上げ(1,405億香港ドル)を上回った。

このように、さまざまな公営ギャンブルに携わっていることから、チャリティー活動にも積極的に取り組んでおり、現地では香港最大の慈善団体としても知られている。


香港競馬の様子(提供:HKJC)


競馬場はシャティン(沙田)とハッピーバレー(跑馬地)の2カ所があり、香港国際競走などほとんどの重賞レースは、シャティン競馬場で行われている。シャンティン競馬場は芝とオールウェザーコースを有しているが、ハッピーバレー競馬場は芝コースのみで、香港国内においてダートや障害のレースは行われていない。

2018年には外厩トレーニング施設として、中国本土の広東省広州市従化区に従化競馬場を設立。2020年からはここで引退馬プログラムも行われている(後述)。本土では競馬などの公営ギャンブルが認められていないが、同競馬場では2019年3月に馬券発売を行わない形のエキシビジョンレースが開かれている。


シャティン競馬場(提供:HKJC)


ハッピーバレー競馬場(提供:HKJC)


レースの開催日程は、9月から翌年7月中旬までを1シーズンとしており、真夏はレースが行われていない。ジョアン・モレイラ騎手やチャクイウ・ホー騎手などが日本の夏競馬に来日したのも、こうしたスケジュールが関係している。

開催日は水曜と土曜または日曜で、年間開催日数は88日(2022/23シーズン)と、JRAの108日(2022年)よりやや少ない。1日に8〜11レース行われる。


主催者発表データに基づき作成


売り上げ面では、2021/22シーズンは競馬関連の売り上げが1,405億香港ドル(1香港ドル=約17円、約2兆3,885億円)だった。日本の馬券売上額3兆2,359億円(2022年)には及ばないが、1日あたりの開催レース数が少ないにもかかわらず、日本の約7割の売り上げがあり、香港の人々の競馬に対する関心の高さを示している。売り上げは増加傾向にあり、特にここ2シーズンは急拡大している。


主催者発表データに基づき作成


入場者数は、新型コロナウイルスの影響でここ3シーズンは大きく減少したが、コロナ禍前の2018/19シーズンには、年間221万人が競馬場を訪れた。コロナ対策の変化に伴い、今後は入場者数も回復する見込みだ。


主催者発表データに基づき作成


香港で最も賞金が高いレースは12月に行われる国際GⅠの香港カップで、1着賞金1,938万香港ドル(約3億2,946万円)、賞金総額3,400万香港ドル(約5億7,800万円)となっている。


主催者発表データに基づき作成


ここまで香港競馬の基本情報について簡単にお伝えしたが、JRAのデータと比較することで、全体的な規模や輪郭についてご理解いただけたかと思う。人口約740万人の香港で、これだけ多くの売り上げや来場者数を記録している点からも、競馬が地元の娯楽として定着していることがうかがえる。


主催者発表データに基づき作成


競馬大国と言える香港で、引退馬に関する取り組みはどのようにして行われているのだろうか。ここからは、香港の競走馬について紹介する。



香港・日本の競走馬の一生


このように日本の競馬と異なる点も多い香港競馬だが、サラブレッドたちは、ここでどのような競走生活を送るのだろうか。デビュー前から引退までを簡単な図で示すと次のようになる。


主催者発表データに基づき作成


この図からも日本と異なる面が多いことがわかる。ここからは一つずつ順に見てみたい。



1.競走馬は全て“輸入”


香港では競走馬の生産が行われておらず、そのほとんどをオセアニアや欧州からの輸入に頼っている。生産しないので種牡馬や繁殖牝馬が要らないため、競走馬も必然的に騸馬の割合が多くなり、登録された競走馬の97〜98%を騸馬(セン馬・後述)が占めている。香港競馬関係者の中には、馬産を模索する動きもあるが、まだ実現への道のりは遠い。


主催者発表データに基づき作成


2.引退後のデポジット


香港の引退馬支援の大きな特徴として、馬主に対するデポジット制度がある。馬主の手引書である「オーナーズハンドブック」には「香港に新しい競走馬が到着した際に、馬主から10万香港ドル(約170万円)の輸入手数料を徴収し、引退後にこれを引退馬プログラムまたは輸出の補助金とする」との記載がある。これは輸入される全馬を対象として、引退後に必要な費用の一部を馬主から事前に預かり、引退後に補助金として再提供するもので、この点については日本と全く異なる仕組みが取られている。


主催者発表データに基づき作成


3.牡馬は去勢される


香港と日本の競馬の大きな違いとして、「騸馬(セン馬)が多い」ことを挙げる方も多い。騸馬とは去勢された牡馬のことで、出馬表などの性別欄に「騸」または「セン」と書かれている馬が該当する。安田記念などの日本のレースにこれまで遠征してきた香港馬もその多くが騸馬だった。生産施設がないため、気性などの問題を考慮して去勢されるのだが、その時期は馬によってバラバラで、デビュー前に騸馬となる馬もいれば、デビュー後に去勢された例もある。いずれにしても、牡馬のまま競走生活を終えて種牡馬になった例は極めて少ない。また、種牡馬になったとしても、香港では生産を行っていないので、他国に移動して種牡馬生活を送ることになる。

今年3月1日時点のHKJCの競走登録馬数は1,235頭。内訳は牡馬31頭、牝馬4頭、騸馬1,199頭、潜在精巣(陰睾)1頭で、競走登録馬のうち97.1%が騸馬となっている。


主催者発表データに基づき作成


4.自主引退か強制引退か


主催者のHKJCでは「引退馬(中国語で退役馬)」の判断基準について、馬主が自発的に所有馬を引退させる「自主引退(主動退役)」とHKJCによる「強制引退(強制退役)」の2種類を定めている。「自主引退」は馬主の判断による引退だが、「強制引退」は次のうち、いずれか一つでも該当する馬が対象となる。

・11歳以上の全ての馬

・シーズン終了後のレーティングが25以下

・獣医師の判断によるもの

・スチュワード(裁決委員)がレースを続けるのが安全でないと判断した馬

11歳を前に強制引退した例としては、ジャパンCに3回参戦したインディジェナス(中国語名:原居民)がある。6歳でスペシャルウィークの2着となり、8歳で7着、9歳でも6着に入るなど、衰え知らずの名馬だったが、10歳のシーズンを終えるとともにターフを去った(年齢は現在のルールで表記)。

インディジェナス(提供:HKJC)


日本では年齢による引退規定はなく、最近ではオジュウチョウサンが11歳まで競走馬生活を続け、現役最後の年に中山グランドジャンプ(J・GⅠ)を制した。

レーティングが低い馬の強制引退は、JRAで3歳8月末までに勝ち上がれなかった馬が引退するのに似ているが、JRAの場合、未勝利のまま中央で現役を続ける馬や、一旦地方に転厩して勝ち上がってから中央に戻ってくる馬などもおり、強制力を伴わない。

次の2項目については、病気や怪我、馬の安全性による引退だが、馬主の判断だけでなく、獣医師やスチュワード(裁決委員)に強制力を伴う決定権がある点は、日本と大きく異なっている。


主催者発表データに基づき作成



 
 

【参考文献】

香港賽馬會「賽事資訊-從化馬場速度馬術比賽」(https://campaigns.hkjc.com/conghua-exhibition-raceday/ch/race-1 アクセス日:2023-03-14)


JRAレースカレンダー(https://www.jra.go.jp/keiba/calendar2022/jan.html アクセス日:2023-03-14)

香港賽馬會「2022/2023香港賽馬會 賽事概覽」2022年.


David Morgan「Deep Impact’s son Elzamee joins Hong Kong’s gelded masses」Asian Racing Report(https://asianracingreport.com/deep-impacts-son-elzamee-joins-hong-kongs-gelded-masses/ アクセス日:2023-03-14)

JRA 馬主情報 よくあるお問い合わせ(https://www.jra.go.jp/owner/members/faq/category_a.html アクセス日:2023-03-14)


薛浩然「香港馬照跑-東西方文化融匯下的香港賽馬事業」2020年.

The Hong Kong Jockey Club「OWNERS’HANDBOOK 5 September 2022」2022年.

競走登録馬数騸馬の頭数(比率)(https://db.netkeiba.com アクセス日:2023-03-14)



The Hong Kong Jockey Club「Retire Your Horse」(https://member.hkjc.com/member/english/horse-owner/ownership-journey/retire-your-horse.aspx アクセス日:2023-03-14)


 

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文:ホリ・カケル

デザイン:椎葉 権成

制作:片川 晴喜

画像提供:香港ジョッキークラブ, Living Legends

編集・監修:平林 健一

著作:Creem Pan

 

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2 comentarios


HisMajesty Graustark
HisMajesty Graustark
29 mar 2023

費用面で生き残る目処が立ったとしても、馬が全ての仕事から引退した後の「終の住処」と「飼養管理者」の確保はどうするか? むしろこちらの方が難題ですね。

香港では具体的にどんな形で引退馬の終生支援が行われているのでしょうか?


生産頭数の多い日本では、全ての引退馬の終生支援は実現が難しいでしょう。

でも、全ての馬に引退後の一定の慰労期間(最低2年)を保証するのは不可能ではないと思う。

年間1万3000頭~1万4000頭ぐらいの馬を分散して繋養できる施設・用地を、各都道府県に準備しておきたいものです。慰労期間で休養している間に、次の進路を決めればいい。


ある程度広い土地でなるべく自然に群れを作らせて、半自立式で飼養するホーストラスト型の養老施設を増やすのもありですね。全国の野草地、過疎の畑作限界地、耕作放棄地などを放牧可能な状態に整備してはどうかな?🌱☘️🌱☘️🌱


耕作放棄地といえば、これを田畑として再生させる試みが各地で行われていますが、単にきゅうりハウスを建てました大根畑を復活させましただけでは物足りない。

これから農業を志す人には、連作障害を防いで畑の地力を保つためにも、引退馬を導入して牧草地(イネ科マメ科の草が緑肥になる)や馬糞堆肥を利用する循環型有畜農業にチャレンジしてもらいたいと思います。  📣🐴(オテツダイシマスカラ、ガンバッテ❗️)


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HisMajesty Graustark
HisMajesty Graustark
29 mar 2023

良い記事ですね。比較事例から教わるヒントはたくさんあります。

真夏に競馬休みの期間があるのはいいな。日本でもこれを真似して、でも完全に休みというわけではなく、通常レースが行われないこの時期を利用したチャリティーレース(後述)を開催してはどうでしょう? たとえば北海道で。


香港の方が「競走馬は人の娯楽に奉仕する経済動物である」という意識は徹底していますね。

競走馬を生産しないということは、国内に余剰在庫を抱えるリスクがないということですから、「無駄を省く」という合理的なビジネス・マインドの表れだと思います。

ディポジットも、カバーできるのはレース引退直後の輸送費や数ヶ月分の餌代・預託料ぐらいで、長期支援を意図した金額ではないし、何はさておきHKJCやその関係者の当座の「持ち出し」を未然に防ぐのが主目的であるような....?

ただ、これが「義務化されている」という点は評価に値する。日本でも、馬主資格の要件の一つとしてディポジットを義務付けるべきだと思います。


日本競馬独自の支援の取り組みとしては、やはりJRAが馬事文化奨励金や功労馬助成金とは別枠で引退競走馬専用の基金を設立して、セカンドキャリア以降の支援を持続可能にする制度を作ってほしい。

原資としては次のようなものを提案したいです。:


(1)馬の年金制度:出走手当・賞金・付加金から定率で積み立てる。積立金を責任持って管理・給付する組織が必要。第三者機関によるチェックも必要で、信用と実績のある引退馬支援団体との連携が望ましい。


(2)エンタテインメント税の導入:競馬観戦の基本料金のようなイメージ。競馬場の入場料・電話投票参加料・インターネット投票参加料として、それぞれ1日につき一人100円ずつJRAが徴収 → 農水省へ(手数料として1%控除可)→ 手数料差引後の全額を引退馬基金の管理組織へ

(注:ダービーを見に府中へ行き午前中にスッカラカンになって帰宅し午後から気を取り直してネット投票に切り替えた場合は、1日で計200円納税することになる)


(3)競馬の臨時開催:夏の北海道で、引退馬支援のためのチャリティーレーシング・デイを実施する。(見た目の涼しい白毛芦毛限定のレース、芝馬がダートをダート馬が芝を走るレース、ポニーのリレー競走などエンタメ性にも配慮。レース結果は正式な競走成績にはカウントされないが賞金は出る。また、全ての出走馬に通常より多い夏季特別出走手当を支給する)


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