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19頭の群れが移動した🐎ホーストラストF放牧地へ行ってきました


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引退馬支援のパイオニアであり、認定NPO法人引退馬協会・代表理事の沼田恭子氏が、

馬と暮らす毎日から抱く思いを綴ります。

サムネール画像:タービランス(引退馬協会所有馬/フォスターホース)とともに



引退馬が生活するホーストラストの放牧地がメガソーラー開発の対象となり、明け渡すことになりました。移動期限の45日ほど前に、急遽舞い込んできた知らせでした。この放牧地には、引退馬協会所有馬が3頭、対外支援事業の引退馬ネット関連馬が1頭暮らしています。馬主として彼らの安定した生活を守るために、私たちは署名運動を展開しました。


ホーストラストJ放牧地(2025年5月撮影)※以下、画像はいずれも引退馬協会提供
ホーストラストJ放牧地(2025年5月撮影)※以下、画像はいずれも引退馬協会提供

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当初、ホーストラストには代替地の提案はなく、放牧地の明け渡し期限が迫る中で、状況の改善や新たな展開を期待していましたが、署名運動を開始して早々に湧水町からの代替地の提案があり、それを受け入れる決定に至りました。


署名活動は当初の予定通り3週間行い、多くの方々のご協力により、最終日の6月26日には38,942名分のご賛同を集めることができました(2025年6月26日、署名終了時のchange.org サイト集計による賛同者数)。この結果は、ホーストラストが全国的に認知されている施設であることの証明にもなります。オンライン署名に参加していただいた皆さまには、感謝しかありません。皆さまに厚く御礼申し上げます。


土地の明け渡し期限が近づく中、追い詰められた心境の中で、最終手段としてオンライン署名を選ぶことになりましたが、この署名活動は想定していた以上に強い圧力を伴う行動と捉えられたようです。

署名の届け先である湧水町長に対しては、馬たちの居場所であるホーストラストを、一緒に育て、サポートしてほしいという願いを届けましたが、この署名活動を単なる抗議として受け取られていたようにも感じました。また、SNSでは引退馬協会への不信感を表わす声も上がり、事務局にもこの件に関するご意見やお問い合わせが寄せられました。


新しい放牧地は、まさにゼロからのスタート


J放牧地の19頭の馬たちは、7月9日にホーストラストのスタッフの皆さんが1頭ずつ引いて歩き、新しい放牧地へと無事移動しました。群れのボスであるハギノハイブリッドを先頭に、全頭が無事に移動する姿を、動画で何度も繰り返して観ました。


(YouTube HORSE TRUST【ホーストラスト】チャンネル「【ホーストラスト】新放牧地完成!【引退馬】」

新たな場所への緊張感もあると思いますが、全頭が揃って移動できたことは、何より馬たちの精神状態に良かったはずです。


移動後3週間後のF放牧地。全体を刈ったばかりで青草はまだ少ない状態
移動後3週間後のF放牧地。全体を刈ったばかりで青草はまだ少ない状態

移動から3週間後となる7月29日・30日、馬たちの様子を見るためにホーストラストへ行って来ました。


被災馬フォスターホースのハーモニィチトセチャンは今後の体調管理のため6月に別の放牧地へ移動済みで、新しい放牧地にはフォスターホースのハギノハイブリッド、ドリームスイーブル、サポートホースのチェリーサウンドを含む19頭がそのまま移動となりました。スタッフリーダーのOさんの案内で見た放牧地はJ放牧地同様広大で、4メートル置きに新しい牧柵が設置され、ワイヤーが貼られていました。


ハギノハイブリッドと筆者
ハギノハイブリッドと筆者
ボスを先頭に、新しい水場で水を飲む馬たち
ボスを先頭に、新しい水場で水を飲む馬たち

唯一の水飲み場を馬たちが順番に利用する様子は、彼らの新しい日常の一部となっています。草地は急ごしらえで整備され、放牧地は再び緑を取り戻すまで数年がかかるとのことでした。


引退馬たちが暮らす放牧地の未来


24時間完全放牧で、引退馬の生活を守るシステムは広大な土地を必要とします。ホーストラストでは1頭あたり0.7ヘクタールほどの牧草地が必要とされており、これは馬が健康的で自然な生活を送るための基準となっているようです。


この広さを確保するために、土地を用意するのはとても大変なことです。今は使われていなくても所有者は存在するので、その土地は借りなければなりません。理想を言えば土地を所有していれば問題はないのですが、広大な面積を購入することは財政的に非常に困難です。そのため、出来るだけ低コストで借りることになります。

低コストで貸す貸主側からすると、事情も考慮する必要があります。彼らにとっても、長期間安定的に土地を貸し続けることが難しい場合があり、この点が将来的に問題となる可能性があります。


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山林に囲まれたF放牧地。24時間放牧で青草を維持するには充分な広さが必要です
山林に囲まれたF放牧地。24時間放牧で青草を維持するには充分な広さが必要です
わずかな日陰で涼む馬たち。日よけと雨よけになるシェルターの設置が待たれます
わずかな日陰で涼む馬たち。日よけと雨よけになるシェルターの設置が待たれます

一方で、地域の中には先祖伝来の山や土地を持ち、時代の変化でどのように活用すれば良いかわからず、そのままにしているという方々もいると聞きます。時間はかかるでしょうが、こうした土地も、引退馬のための安定した居場所をホーストラストが維持し、提供し続けることに繋がるのではないでしょうか。


ホーストラストは観光牧場ではありませんが、霧島アート牧場周辺では自然の中で暮らす馬たちを誰でも見学することができます。この牧場は養老牧場としても世界的な規模を誇り、とくにサラブレッドが多いことから、とても希少な場所と言えます。


今回は、湧水町の町役場の方に勧められて、日本の名水百選にも選ばれた場所を訪れました。多くの人々が涼を取りながら憩うこの場所は、一年中霧島山麓の冷水が湧き出る、豊かな自然の恩恵を受けています。

短時間の滞在でしたが、暑い夏を無事に過ごした馬たちが元気に暮らしている様子をまた見に来たいと思いながら、帰路につきました。


「そうめん流し」でも有名な竹中池の澄んだ水
「そうめん流し」でも有名な竹中池の澄んだ水
「日本名水100選」の丸池湧水にも立ち寄りました
「日本名水100選」の丸池湧水にも立ち寄りました

署名活動のその後、放牧地訪問の詳細は以下をご参照ください。


●「署名活動についてのご報告」


●「ホーストラスト訪問記/移動後のF放牧地を訪ねました」


Profile

沼田恭子(ぬまたきょうこ)


広島県生まれ。乗馬倶楽部イグレット 代表取締役、認定NPO法人引退馬協会 代表理事。1997年、引退馬協会の前身となる「イグレット軽種馬フォスターペアレントの会」を設立。2011年「特定非営利活動法人引退馬協会」設立、2013年「認定特定非営利活動法人(認定NPO法人)」となった。




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文:沼田 恭子

構成:Yumiko Okayama

編集:椎葉 権成・近藤 将太

著作:Creem Pan


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