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課題は山積み!第二の夢は叶うのか?|名伯楽・角居勝彦の挑戦 3/4

歴史的名牝ウオッカをはじめ、種牡馬としても活躍中のエピファネイアやルーラーシップ、国外でも活躍したヴィクトワールピサやデルタブルースなど、数々の名馬を管理してきた角居勝彦元調教師。2021年に調教師を早期引退すると、家業を継ぐとともに地元・石川県で引退馬支援の活動を開始した。調教師として多くの馬と触れ合い、多くの夢を掴み取った名伯楽の目には、今、どのような第二の夢が映っているのだろうか──。

今回は石川県の能登半島で過ごす角居さんに、自身の掲げる引退馬支援への想い・ビジョンを伺ってきた。


 


引退馬問題における3つの課題


石川県能登半島・タイニーズファームの地図(株式会社Creem Pan 作成)


​現在、角居さんが暮らす輪島市は漁師町であり、漆塗りという特有の産業もあって町全体が凝縮しているが、タイニーズファームのある珠洲市は住宅も点々としていて、馬にとっては生活のしやすいエリアだ。鉢ヶ崎海岸へのアクセスも良く、近くには見晴らしの良いロケーションもあるため、馬を置いておくにはとても魅力的なのだという。


​冒頭でも少し触れた通り、多くの問題が絡み合っているこの引退馬問題について、角居さんは、引退馬を受け入れる場所の問題と運営していくための資金面の問題、最後にそれを維持して円滑に回していくだけの人材不足の問題という3点を課題として捉えている。それらの課題を前に進めていくためには一体どのようにしていったらいいのだろうか。場所の問題については、角居さんがそうしたように土地が余っている場所を見つけて上手く活用していくということが重要になってくる。


「必ずしも水が水道から出ないといけないわけでも、電気が必要なわけでもありません。草はそこらに生えているし、馬は建物が無くても林の中に逃げ込むだけで雨を避けられるような環境を自分達で作っていくことができます。馬を触っている人たちが思っている以上に、馬は──サラブレッドは、強いんです。そのことがわかれば、少しずつ環境面でのハードルを下げていけると思います」


最終的には草が生い茂った状態のところに馬を放牧し、サラブレッドはどのような土地環境まで耐えて、草地化する技術があるのかというのを見ながら、馬がなるべく野生化した自然体で生きる状態を作っていくことを目指している。


写真:タイニーズファームの厩舎(株式会社Creem Pan)


実際、タイニーズファームの厩舎の扉は基本的には全てオープンにしていて、馬自身が自由に草を食べに出て、天気の都合で自由に厩舎に戻って来られる環境をつくってある。そうして場所を確保できたとして、今度はお金を生み出していく方法を見つけていかなければいけない。現代社会においては、クラウドファンディングの利用やSNSでの情報の拡散など、これらの活動自体を多くの人たちに可視化できるネット環境が整備されてきた。


​「日常に『今日の馬はこんなことをしました、あんなことしました』というのをアップするだけで見てくれる人がいるというのは、今の時代の強みかなと思うので、そこから色んなインフルエンサーを作って、『じゃあそこに行ってみたい』と思わせていけるかが重要ですね」

インフルエンサーといえば、yogiboヴェルサイユリゾートファームyogibo株式会社とスポンサード契約を結んだ他、同牧場の繋養馬であるアドマイヤジャパンが正式にCM契約を締結したことで大きな話題を呼んだが、そのようにネットを駆使しながら引退馬自身がお金を生み出していく仕組みをさらに拡大していくことが重要になってくる。


岩手県八幡平市にあるジオファーム八幡平で取り組まれている馬堆肥を使ったマッシュルーム栽培のような馬と農業をリンクさせて目指す経済的な自立も、魅力的な事業のひとつ。もちろんホーストラストの目指す形、yogiboヴェルサイユリゾートファームが目指す形、そしてジオファームが目指す形のどれが正解で、どれが間違いなどということは全くない。

「これら3つの形が“組み合わさっていく”というのが大事なテーマだと思います。それが行政に評価されるところまでいくことで、過疎化が進んだ何も仕事として成り立たない地域にも馬を送り込んでいくことができるようになれば、より早く多くの馬の行き先が生まれてくるのではないかと思っています」

「動物取扱責任者」というライセンス


写真:石川県移住後の角居勝彦さん(一般財団法人ホースコミュニティ 提供)


​人材面では、法律やルールの課題も残されている。観光事業としてたくさんの人に利用してもらうとなると、「動物取扱責任者」というライセンスが必要になる。このライセンスの取得に必要な条件には獣医師免許や愛玩動物看護師であったり、その他の国家資格を持っていることに加えて実務経験が必要であったりするわけなのだが、競馬関係者はそのどれにも当てはまらないのだという。

「JRAの調教師として20年も馬に触っていたのに、『動物取扱責任者取れますか』って聞いたら『取れません』って言われたんですよ。じゃあ今から犬猫の学校行くのかと。『乗馬クラブだって今から僕に実務経験積ませてくれって言っても多分嫌だって言うと思うんですが……』って言ったら『ん〜……』って言われてしまって(苦笑)」

馬を、まして競馬あがりのサラブレッドを扱える人材をすぐに育成するのはかなり困難だ。しかし、競馬サークルでは角居さんのような調教師をはじめ、騎手、厩務員から毎年100人近くの退職者が出ることになる。競馬場から出る人材が引退馬の余生のために色々な地域に指導者として散らばることができれば、より円滑に引退馬支援の輪を広げていけるはずだ。もちろん馬は猫や犬とは異なり、大型動物であり、一般の環境にありふれた動物でもない。そのため、複数頭を飼育している環境下で急に馬を扱える当事者がいなくなってしまえば、一気にパニックに陥ることも事実だ。その点を考えれば、動物取扱責任者が必要ないとは言えない。しかし逆に言えば、その動物取扱責任者は馬を扱った経験のある人であることが好ましいとも言える。

「どれだけ犬猫の学校を出たって馬の世話に直結するわけではないですからね。逆に競馬サークルから定年退職で出たシルバー人材でも、実務経験があれば、馬に限って動物取扱責任者のライセンスを渡してもらえることで、全国に馬が散らばって普及していくことへのハードルも少し下がるんじゃないかな、と思っています」​


(つづく)

 

取材協力:

角居 勝彦(みんなのウマ株式会社 COO)

一般財団法人ホースコミュニティ

タイニーズファーム


文:秀間 翔哉

デザイン:椎葉 権成

協力:緒方 きしん

取材・監修:平林 健一

著作:Creem Pan


 


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3 comentarios


HisMajesty Graustark
HisMajesty Graustark
15 oct 2022

>草が生い茂った状態のところに馬を放牧し……馬がなるべく野生化した自然体で生きる状態を作っていくことを目指している

ホーストラストの珠洲市ヴァージョンみたいな感じでしょうか? 奥能登の雄大な景色に馬が映えることでしょう。


そのうち、特定の種牡馬や母馬の産駒が野生化に特に適していることがわかり、サバイバルのリーディングサイアーとか名牝系とか出てきて、血統が淘汰されてくるかも。野生の証明ですね。(成功間違いなしと思われる種牡馬が何頭か思い当たります......😅)


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HisMajesty Graustark
HisMajesty Graustark
15 oct 2022

動物との「ふれあい」を目的とする観光施設や牧場は、第一種動物取扱業(展示業)に該当するので、角居先生のような事業計画においては「動物取扱責任者」が必須ですね。

ただ、「動物取扱責任者」それ自体は独立した資格ではなく、第一種動物取扱業者が自分を選任して兼務することもできます。

そして、私の前記投稿の(4)の「資格」の中には、獣医師や動物看護師だけでなく地方競馬教養センター騎手課程修了者や(地方競馬の)調教師が含まれています。

いずれもNAR(地方共同法人 地方競馬全国協会)という「公平性・専門性のある団体が行った試験により資格を得ている」すなわち「営もうとする第一種動物取扱業の種別に係る知識及び技術を習得している」と証明されたとみなされ、(4)-③の「資格」要件を満たすわけです。


角居先生の場合は、JRAの調教師試験に合格され長期に渡る厩舎実務経験がおありなので、たとえ勇退後であってもその実績を保証するJRAの証明書があれば、NAR所管の「調教師」資格の準用で、「動物取扱責任者」として認定可能なのではないでしょうか?

同様の手続(実績証明提出)により、JRA競馬学校の騎手・厩務員課程修了者にも準用することが望まれます。


もしまだでしたら、一度、珠洲市に「資格要件に関する準用」を相談してみられては?

(地方競馬の調教師さんの「資格」がOKでJRAはダメって、どう考えてもヘンでしょ?🤔)


また、JRAの「引退競走馬に関する検討委員会」にも改善策を要望してみられては?

私は早速、Loveumagazine.『責任と義務 JRA調教師・鈴木伸尋 1/3』のコメント欄に、いち引退馬支援者としてのお願いを書いておきました。(ゴマメの雄叫び程度の小さな声でもいつかは届くと信じて!😊🐴)


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HisMajesty Graustark
HisMajesty Graustark
15 oct 2022

ホースセラピーや観光牧場を始めるにあたっては、最低限の関連法規と、いつどこへ何の届出をするか等の知識が必要になりますね。具体的な手続については、いずれLoveuma.でも、わかりやすく特集していただけるとありがたいです。

参考までに、基本事項は以下のとおり。

(1)まず、個人のペット(愛玩動物)にする以外の目的で動物を飼養するときは、「第一種動物取扱業」か「第二種動物取扱業」の登録をしなければならない。何らかの料金を取る(営利)なら第一種、非営利なら第二種。


(2)「動物取扱責任者」は「第一種動物取扱業」の登録申請に必要な要件で、第一種動物取扱業者が自ら兼任することもできる。


(3)令和2年6月1日施行の改正動物愛護管理法に基づき、動物愛護責任者の資格要件が次のように変わった。:〔規定の資格・要件〕 + 〔実務経験〕


(4)規定の資格・要件とは?:

①獣医師 (国家資格 農林水産省所管)

②愛玩動物看護師 (国家資格 農林水産省及び環境省所管)

③資格 (専門性を有する社団法人等の試験に合格している)及び実務経験(第一種動物取扱業で6ヶ月以上の実務経験がある)

④卒業(獣医学、動物看護学、畜産学などを学ぶ大学、専門学校などの教育機関を卒業している)及び実務経験(第一種動物取扱業で6ヶ月以上の実務経験がある)


(5)改正前は、「業務に関する資格」「実務経験」「卒業」のいずれかであれば「動物取扱責任者」の要件を満たしたが、今後は「資格」と「実務経験」の二つが必要になるので、現在一つの要件で同責任者となっている人は、施行後3年以内にもう一つの要件を満たさなければならない。


以上


(字をいっぱい書く/打つと猛烈におなかがすくのはなぜだろう?☕️ 🍔🍔🍔)


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