地方移籍、乗馬転向、屠畜。葛藤の中で心の支えとなっているのは、一頭の引退馬の存在 by 江川 聡子さん
「withuma.」vol.44 江川聡子さん
Profile
お名前:江川 聡子さん
ご年齢:39歳
居住地:茨城県
Instagram:@inookatrainingcenter
第44回は、美浦にほど近い競走馬育成牧場、井ノ岡トレーニングセンターの代表をされている江川聡子さんです!
いったいどのような「withuma.」を送っていらっしゃるのでしょうか?
江川聡子さんの「withuma.」
美浦近郊で父が営む競走馬の育成牧場「井ノ岡トレーニングセンター」を引き継ぐべく、7年前から競走馬相手に日々奮闘しています。
仕事では、競走馬の育成と休養、馴致や引退競走馬のリトレーニングもしています。
大切にしていることは、どんな馬に対しても敬意を持って接することです。
どんな成績の馬であってもお客様の大切な一頭であり、命あるもの。
この仕事で生きている以上、全ての馬にリスペクトを持って接しています。
今後の目標は、育成牧場ですから、まずは一つでも多くのレースに勝てるよう万全の体調で美浦トレセンに戻してあげることですね。
Withuma.では初めての育成牧場のお話になります。
生産牧場はその名の通り、競走馬の生産を主としますが、育成牧場は競走馬の育成や休養馬の受け入れなど、守備範囲が広い印象で、競馬ファンでも詳しくは知らない方が多いと思います。
そして、初めて引退馬のリトレーニングも行うことを知りました。
また、全ての馬に対して敬意を持つこと…大変素晴らしく、大切なことであると思いました。
敬意をもって接すればこちらに対しても尊重してくれるというのも、馬と接するポイントであり、魅力でもあると感じています。
江川聡子さんの「Loveuma.」
生まれた瞬間から隣に馬がいる生活だった私にとって、馬は友達のような存在です。
とにかく可愛くて仕方がなかったですね。
10代の頃は障害馬術の選手として、自分の馬と全国の競技会に出場していました。
20歳を過ぎて就職活動が始まるとともに、色々と考えた結果、自分には馬を経済動物として扱う仕事はできないと思い、一度は馬の世界から離れました。
それでもこの世界に戻ってきてしまうのが馬の魅力。
同じような人たちが私の周りにも沢山います。
そして、10数年ぶりに会った人でも、馬との思い出話をしているうちにすぐに昔の関係に戻れます。
馬の魅力が人と人を繋いでくれていると感じます。
私のお気に入りの馬は、カネノイロ号です。
私たちが最後まで面倒を見ると決めた一頭で、競走馬を引退後、私の牧場で余生を過ごしています。
日々多くの馬たちがこの牧場を経由して地方競馬へ、乗馬へ、屠畜へと行くのを見ていく中で、この子だけは最後まで見ると決めていることで、心を保っているところがあります。
私の心をフラットにしてくれる存在です。
Withuma.にご登場いただく方を含め、私が出会ってきた馬に携わっていた方々は、一度馬から離れてもまた戻ってこられてることが非常に多いです。
馬の縁というのは不思議なものですね。
カネノイロ号は、中央在籍時に競馬場で何度か見たことがある馬で、とても懐かしいです。
映画『今日もどこかで馬は生まれる』に登場した競馬関係者の皆さんは、口を揃えて「割り切っている」と話しておられました。
現場の方々は、産業としてのサイクル上、たとえ仕方のないことであったとしても、生き物として毎日接している馬との別れを幾度となく経験され、精神的負担と葛藤の中で闘っておられると想像します。
江川さんの仰るように、一頭でも最期まで面倒を見ることが、今出来る範囲での責任の取り方になるかと思いますし、そうした取り組みをされていることは、とても素晴らしいと感じました。
引退馬問題について
育成牧場では、競走を引退した馬が美浦トレセンから来ることも多々あります。
育成で預かっている間から、乗馬に向きそうな子は頭に入れておき、その馬に合った乗馬クラブへ紹介する活動をしています。
次の活躍できる場を用意することが支援の一つになればとの思いですが、その反面、ところてん方式でその乗馬クラブでは不要と判断された馬が出されてしまっている可能性があると思うと、複雑な気持ちもあります。
本当の意味での引退馬支援は、やはり馬に興味をもつ人を増やすことだと思います。
そのこともあり、牧場では日々Instagramで馬たちの様子や、意外な一面を投稿しています。
その中で頂くコメントの中には、「乗るのは怖いけど、馬に触ったり引き馬したりして過ごしたい」というものも多くあります。
乗るだけではないニーズを引き出せたら、もっと馬の活躍できる場を増やせるのではないかと思います。
乗馬に向きそうな子というお話ですが、従順さなのか、体格なのか…具体的にどういったシーンで、そのような要素を感じられるのかがとても気になりました。
「乗るだけではないニーズ」は、馬に接する私たちだからこそ感じている部分ですが、これを全く馬と関わったことのない人にどうやって伝えるのかが難しいと感じます。
そういった意味で、まずはSNSを通じて、手軽に馬の"魅力"を感じてもらうというご活動は、とても素敵だと感じました。
井ノ岡トレーニングセンターのInstagramはこちらです。
ご興味のある方はぜひチェックしてみてください!
今回は、美浦にほど近い競走馬育成牧場、井ノ岡トレーニングセンターの代表をされている江川聡子さんの「withuma.」を伺いました!
毎週定期更新してまいりますので、次回もよろしくお願いいたします!
「withuma.」では、馬にまつわる活動や、その思いについて発信していただける方を募集しております。
リモート取材は一切なく、専用フォームからアンケートにお答えいただくと、その内容が記事になります。
今後も「withuma.」を通して、引退馬問題前進の一助となれるよう、微力ながら馬事産業・文化に携わる人を発信していきますので、是非皆さまからのご応募をお待ちしております!
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協力:江川聡子さん 取材・文:片川 晴喜 編集:平本 淳也 著作:Creem Pan
江川さんのお父様は岩手大学馬術部のOBなのですね。
何年か前に岩大を案内してもらったとき、植物園の樹木の枝に怪しいケモノが🙀止まっていました。(根元には半分食い荒らされたツナ缶が....)
『不思議の国のアリス』に出るチェシャ猫みたいでした。
お父様の時代からキャンパスには猫がいたのかな?
あやしいけもの(1)
あやしいけもの(2)
けもの御殿(ではない重要文化財の旧門衛所)
ノーザンレイクの佐々木さんがnetkeibaに執筆されている『第二のストーリー ~あの馬はいま~』のアーカイブで、井ノ岡トレーニングセンターのことを知りました。
競走馬と乗用馬、どちらも作れる二刀流の牧場なのですね。すごく貴重!
乗馬の経験値を豊富に持っておられることは、サラブレッドの引退後の適性を判断する際はもちろんですが、現役競走馬の育成・精神的ケアにも非常に役立つと思います。
上述の記事で、ルーラーシップ産駒の前肢の可動域の広さは馬術向きと指摘しておられましたが、そう言われてみると、なるほど足を高く上げて走る仔がよくいるな、と気づきました。
性格さえ向いていたら、キセキなんか馬場馬術の花形になれたかもしれませんね。
(現役時代のあの馬体で力感あふれる華麗なピアッフェを踏む姿なんか、想像しただけでヨダレが。。。😍💕)
>馬に興味を持つ人を増やすこと
>乗るだけではないニーズを引き出せたら
身近に馬がいない人たちにとって、SNSでの馬情報の発信は本当にありがたいと思います。
実馬に触れ合う手段としては、ひだかうまキッズ探検隊のような体験学習のプログラムを美浦・栗東に作るとか、引退馬がポニー帯同で地域の幼稚園や学校へ積極的に出張するとか。
一般企業の福利厚生で、乗馬のレッスンやホースセラピーを受ける費用を会社が全額負担してくれるとか。
人間がいろいろとアイデアを出して頑張らなければいけませんね。💪